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東京地方裁判所 平成6年(行ウ)301号 判決 1998年4月30日

東京都墨田区八広四丁目二四番一三号

原告

本多由未子

右訴訟代理人弁護士

佐藤義行

関根稔

後藤正幸

東京都墨田区東向島二丁目七番一四号

被告

向島税務署長 菊池正道

右訴訟代理人弁護士

竹内光治

右指定代理人

中垣内健治

上武光夫

庄子衛

森重良二

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告が平成四年四月二八日付けでした相続税の更正処分(平成七年一月二三日付け再更正処分により減額された後のもの)のうち課税価格一億六二二四万八〇〇〇円、納付すべき税額八〇〇五万六〇〇〇円を越える部分及び右更正処分に伴う過少申告加算税の賦課決定処分(平成七年一月二三日付け変更決定により減額された後のもの)を取り消す。

第二事案の概要

本件は、平成二年五月九日に原告の養父本多平左衛門(以下「本件被相続人」という。)が死亡したことにより開始した相続(以下「本件相続」という。)に係る原告の相続税に関し、被告がした更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分が適法であるか否か、具体的には、本件被相続人が所有し、有限会社本多地所に対し貸し付けていた別紙物件目録一の1並びに同目録二の1及び2記載の各土地が、租税特別措置法(平成四年法律第一四号による改正前のもの。以下「措置法」という。)六九条の三(小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例。以下「本件特例」という。)に規定されている相続開始の直前において被相続人の事業の用に供されていた宅地(以下「事業用宅地」という。)に当たるか否かが争われているものである。

一  関係法令の定め

(一)  個人が相続により取得した財産のうちに、当該相続の開始の直前において、当該相続に係る被相続人若しくは当該被相続人と生計を一にしていた当該被相続人の親族(以下「被相続人等」という。)の事業の用若しくは居住の用に供されていた宅地等(土地又は土地の上に存する権利をいう。)で大蔵省令で定める建物若しくは構築物の敷地の用に供されているもの又は国の事業の用に供されている宅地等で大蔵省令で定める建物の敷地の用に供されているもので政令で定めるものがある場合には、当該相続により財産を取得した者に係るすべてのこれらの宅地等の二〇〇平方メートルまでの部分のうち、当該個人が取得をした宅地等で政令で定めるもの(以下「小規模宅地等」という。)については、相続税法一一条の二に規定する相続税の課税価格に算入すべき価額は、当該小規模宅地等の価額に次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める割合を乗じて計算した金額とするものとされている(措置法六九条の三第一項)。

(1) 一号

当該小規模宅地等に係る当該二〇〇平方メートルまでの部分の全部が当該被相続人等又は国の事業の用に供されていた宅地等である場合

一〇〇分の四〇

(2) 二号

当該小規模宅地等に係る当該二〇〇平方メートルまでの部分の一部が当該被相続人又は国の事業の用に供されていた宅地等である場合

イ又はロに掲げる宅地等の区分に応じイ又はロに定める割合

イ 当該被相続人等又は国の事業の用に供されていた宅地等

一〇〇分の四〇

ロ 当該被相続人等の居住の用に供されていた宅地等

一〇〇分の六〇

(3) 三号

当該小規模宅地等に係る当該二〇〇平方メートルまでの部分の全部が当該被相続人等の居住の用に供されていた宅地等である場合

一〇〇分の五〇

なお、本件特例は、原則として、その適用を受けようとする者の当該相続に係る相続税の申告書(国税通則法(以下「通則法」という。)一八条二項に規定する期限後申告書及び同法一九条三項に規定する修正申告書を含む。)にその旨を記載し、その特例による計算に関する明細書その他大蔵省令で定める書類の添付がある場合に限り適用される(措置法六九条の三第三項及び四項)。

(二)  本件相続開始当時における課税実務上、被相続人の有する宅地等で法人(被相続人等の有する株式の総数又は出資の金額の合計額が当該株式又は出資に係る法人の発行済株式の総数又は出資金額の一〇分の五以上に相当する場合のその法人で、その発行する株式が相続税財産評価に関する基本通達(昭和三九年四月二五日付直資五六ほか一課共同)の一六八の(1)に規定する上場株式又は一六八の(2)に規定する気配相場のある株式に該当する法人以外の法人に限る。以下「同族会社」という。)の事業の用(その法人により他に貸し付けられていた場合には、その貸付けが個人によって行われていたものとした場合に事業として行われていたと認められるときに限る。)に供されていたものについては、被相続人等の事業用宅地等に当たるものとして取り扱われていた(平成八年課資二-一一七による改正前の租税特別措置法通達(以下「措置法通達」という。)六九の三の六)。

二  前提となる事実

1  課税処分等の経緯(争いのない事実)

(一) 平成二年五月九日、原告の養父本多平左衛門(本件被相続人)は死亡し、原告は、本件相続により、別紙物件目録一の1記載の土地(以下「日本橋の土地」という。)、同目録二の1及び2記載の土地(以下「神田の各土地」といい、日本橋の土地と併せて「本件各土地」という。なお、本件各土地の面積は合計で一七九・六六平方メートルである。)等の財産を承継取得した。

(二) 平成二年一一月九日、原告は、被告に対し、課税価格を一億六〇七九万六〇〇〇円、納付すべき税額を七九一一万三四〇〇円と記載した相続税の申告書を提出した。

さらに、平成四年三月三日、原告は、被告に対し、課税価格を一億六二二四万八〇〇〇円、納付すべき税額を八〇〇五万六〇〇〇円と記載した修正申告書を提出した。

(三) 被告は、原告に対し、平成四年四月二八日付けで、その相続について、別表1記載のとおり、課税価格を三五億四九八七万三〇〇〇円、納付すべき税額を二二億〇七〇五万七〇〇〇円とする更正処分(以下、同更正処分で後記(六)の再更正処分により減額された後のものを「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の額を三億一五一四万一五〇〇円とする賦課決定処分(以下、同賦課決定処分で後記(六)の変更決定により減額された後のものを「本件賦課決定処分」といい、本件更正処分と併せて「本件各処分」という。)を行った。

(四) 右(三)の更正処分及び賦課決定処分は、その各処分に係る事項に関する調査が、東京国税局の職員によってされたものである旨の記載がある書面により通知されたものであるところ、原告は、右更正処分及び賦課決定処分を不服として、平成四年六月二五日、東京国税局長に対し、異議申立てをした。これに対し、東京国税局長は、同年九月二二日付けで、異議申立てをいずれも棄却する旨の決定をした。

(五) 原告は、平成四年一〇月二二日、国税不服審判所長に対し、審査請求をしたが、同所長は、平成六年六月二八日付けで右審査請求を棄却する旨の裁決をした。

(六) 被告は、原告に対し、平成七年一月二三日付けで、その相続税について、別表1記載のとおり、課税価格三五億二四五九万一〇〇〇円、納付すべき税額二一億八九九九万一五〇〇円とする相続税の減額の再更正処分及び過少申告加算税を三億一二五八万一〇〇〇円に減額する旨の変更決定をした。

2  被告の主張する本件更正処分等の根拠(当事者間に争いがない部分には、その旨を付記した。)

(一) 被告が本訴において主張する原告の本件相続に係る相続税の課税価格及び納付すべき税額は、本件更正処分による課税価格及び納付すべき税額と同額の次の金額であり、その算出根拠は、別表2及び3記載のとおりである。

(1) 課税価格の合計額(別表2の<14>欄の合計欄の金額)

五一億七四五九万一〇〇〇円

右金額は、次のアの「相続により取得した財産の総額」からイの「控除すべき債務等の総額」を控除した後の金額(ただし、通則法一一八条一項の規定により、原告及び他の共同相続人三人(以下「原告ら」という。)につき、各人ごとに課税価格の一〇〇〇円未満の端数を切り捨てた後のもの。)である。

なお、原告らによる遺産分割協議の結果、原告がその他の相続人三名に対して負担することとなった代償金一六億五〇〇〇万円は、原告が取得した財産の価額欄(別表2の<7>欄)で控除するものとする。

ア 相続により取得した財産の総額(別表2の<7>欄の合計欄の金額)

一五五億三九六〇万八一九七円

右金額は、原告らが本件相続により取得した財産の総額であり、その内訳は次のとおりである。

(ア) 土地の価額(別表2の<1>欄の合計欄の金額)

一一一億四七一四万一九四六円

右金額の内訳は、別表4記載のとおりであり、符号一〇四ないし一〇六の各土地の価額を除き、争いがない。

(イ) 建物の価額(別表2の<2>欄の合計欄の金額であり、その内訳は別表5記載のとおりである。)(争いがない)

六七三一万〇二九二円

(ウ) 有価証券の価額(別表2の<3>欄の合計欄の金額)(争いがない)

六七六〇万円

(エ) 現金・預貯金等の金額(別表2の<4>欄の合計欄の金額であり、その内訳は別表6記載のとおりである。)(争いがない)

一三億七五九二万三九四八円

(オ) 家庭用財産等の額(別表2の<5>欄の合計欄の金額)(争いがない)

三〇万円

(カ) その他の財産の価額(別表2の<6>欄の合計欄の金額であり、その内訳は別表7記載のとおりである。)(争いがない)

二八億八一三三万二〇一一円

イ 控除すべき債務等の総額(別表2の<12>欄の合計欄の金額であり、その内訳は別表8記載の債務の金額と葬式費用の金額の合計額である。)(争いがない)

一〇三億六五〇一万六八七九円

(2) 原告の納付すべき税額(別表3の原告欄の<9>欄の金額)

二一億八九九九万一五〇〇円

右金額は、相続税法一五条、一六条及び一七条(一五条及び一六条については、いずれも平成四年法律第一六号による改正前のもの)の規定に基づき、前記(1)の相続税の課税価格の合計額から遺産に係る基礎控除額(別表3の<2>欄の合計欄の金額)を差し引いた金額(別表3の<3>欄の金額)を原告ら各相続人が民法九〇〇条及び九〇一条の規定による相続分に応じて取得したものとした場合における各取得金額(一〇〇〇円未満の端数を切り捨てた後の金額(別表3の<5>欄の金額))に、相続税法一六条に定める税率を適用して、それぞれ、算出した金額の合計額(別表3の<6>欄の合計額欄の金額)に原告の取得割合(別表3の<1>欄の原告欄の金額を合計額欄の金額で除した割合)を乗じて算出したもの(通則法一一九条により一〇〇円未満の端数を切り捨てた後のもの)である。

(二) 本件賦課決定処分の根拠

原告は、本件相続に係る相続税の申告の際、課税価格及び納付すべき税額を過少に申告していたものであり、過少に申告したことについて通則法六五条四項に規定する正当な理由は存しない。

過少申告加算税額は、同法六五条一項、二項により、本件更正処分により原告が新たに納付すべきこととなった税額二一億〇九九三万円(二一億〇九九三万五五〇〇円につき、同法一一八条の規定により一万円未満の端数を切り捨てた後のもの)に一〇〇分の一〇の割合を乗じて算出した金額二一億〇九九万三〇〇〇円に、右新たに納付すべきこととなった税額及び本件修正申告書の提出により原告が新たに納付すべきこととなった税額九四万二五〇〇円との合計額のうち、期限内申告税額七九一一万三四〇〇円を越える部分に相当する金額二〇億三一七六万円(同法一一八条の規定により一万円未満の端数を切り捨てた後のもの)に一〇〇分の五の割合を乗じて算出した金額一億〇一五八万八〇〇〇円を加算した金額の三億一二五八万一〇〇〇円となる。

3  原告は、本件相続開始直前において本件被相続人が日本橋の土地、神田の各土地上の各建物を賃貸して事業の用に供しており、別紙物件目録三記載の土地を居住の用に供していたとして、別表9記載のとおり、右各土地から合計二〇〇平方メートルを選択し、本件特例の適用を受けようとする旨、本件相続に係る相続税の申告書に記載し、本件特例に係る課税価格の計算明細書を添付して申告をしたのに対し、被告は、本件各土地につき、本件特例の適用を認めず、本件各処分を行ったものである。

4  本件各土地の取得の経緯及び利用状況等(証拠により認定した事実は、その末尾に証拠を掲げた。その余の事実は、当事者間に争いがない。)

(一) 本件各土地が取得されるまでの経緯

(1) 本件被相続人は、昭和六四年一月四日に、糖尿病をわずらっていたことから、以前に治療を受けたことがある墨田中央病院へ入院し、平成元年四月二八日には、同病院から星病院に転院しているところ、その間の同年一月一三日に、その孫である原告を養子とする縁組の届出をし、さらに平成元年四月五日には、入院中の墨田中央病院の病室で、<1>全財産を原告に相続させる(遺言公正証書の第一)、<2>遺言執行者に富永敏丈弁護士を指定する(同第四)旨の遺言公正証書を作成した(乙四、五)。

また、平成元年一月三〇日には、原告の実父本多平蔵(以下「平蔵」という。)を代表取締役とする有限会社本多地所(なお、同社は平成三年五月一四日の組織変更により株式会社本多地所となり、現在に至っている。以下「本多地所」という。)が、さらに、平成元年二月一四日には、原告の夫本多信悟(以下「信悟」という。)を代表取締役とする株式会社東京本多開発(なお、同社は平成元年一一月一四日に商号変更により株式会社ホンダ開発となり、現在に至っている。以下「ホンダ開発」という。)がそれぞれ設立された。

本多地所は、本件被相続人と平蔵とが五〇パーセントずつ出資して設立されたものであり、本件被相続人の同族会社であった(甲二一及び弁論の全趣旨)。

(2) 信悟は、平成元年一一月中旬に、三井銀行(その後、さくら銀行と商号を変更した。)新宿支店を通じて面識のあった岡部徹税理士(以下「岡部」という。)に対し本件被相続人に係る相続税の対策を相談した。

岡部は、平成元年一二月初旬に、三井銀行新宿支店の紹介で三銀モーゲージサービス株式会社(以下「三銀モーゲージ」という。)を訪問し、続けて同月一四日ころ再度三銀モーゲージを訪問して、本件被相続人名義で借入れの申込みを行った(乙六及び弁論の全趣旨)。

(3) 三銀モーゲージは、右借入れの申込みに対し社内で検討した結果、本件被相続人が九二歳と高齢であることから、借入名義人本人の借入意志の確認ができ、かつ、原告、平蔵及び本多地所の保証を取ることを条件に右借入申込みに応じることとし、その旨を三井銀行を通じて岡部に伝えた。

(4) 平成元年一二月二八日に、債権者三銀モーゲージ、債務者本件被相続人、借入金額五〇億円、弁済期限を平成五年三月二〇日、利率六・五パーセント、管理保証料一・〇パーセント(利率及び管理保証料を併せて以下「利息等」という。)とする第一回目の金銭消費貸借契約、抵当権設定契約及び抵当証券発行に関する契約が締結され、三井銀行新宿支店で<1>右五〇億円の融資実行手続と、<2>売主を株式会社新日本クリエイトビューロー(その後、株式会社クレアールと商号を変更している。以下「クリエイトビューロー」という。)、買主を本件被相続人として日本橋の土地を二四億九四八三万四五〇〇円で売買する旨の契約の締結及び売買代金の授受が行われた。

また、右売買契約に併せて、売主をクリエイトビューロー、買主を本多地所として日本橋の土地上の建物(別紙物件目録一の2記載の建物であり、以下「日本橋の建物」といい、日本橋の土地と併せて「日本橋の物件」という。)を五一六万五五〇〇円で売買する旨の契約も締結され、その購入代金も本件被相続人の右五〇億円の借入金から支払われた。右の日本橋の建物の売買契約においては、売主は、本契約締結時から八か月以内に売主の費用と責任において、同建物の二階ないし四階部分の全賃借人を退去させる旨の特約がされており、同建物は空き家として引き渡されることになっていた。

なお、本件被相続人が立替払した本多地所の日本橋の建物の購入代金相当額は、同日、本多地所から本件被相続人へ返済された。

(5) 平成二年二月二二日に、債権者三銀モーゲージ、債務者本件被相続人、借入金額五〇億円、弁済期限を平成五年六月二〇日、利率七・五パーセント、管理保証料一・〇パーセントとする第二回目の金銭消費貸借契約、抵当権設定契約及び抵当証券発行に関する契約が締結され、三井銀行新宿支店で<1>右五〇億円の融資実行手続と(平成元年一二月二八日の借入金五〇億円と右借入金を併せて、以下「本件借入金」という。)、<2>売主を株式会社第一ビルド(以下「第一ビルド」という。)買主を本件被相続人として神田の各土地を三〇億九二五四万八九〇〇円で売買する旨の契約の締結及び売買代金の授受が行われた。

また、右売買契約に併せて、売主を第一ビルド、買主を本多地所とする神田の各土地上の建物(別紙物件目録二の3及び4記載の建物であり、それぞれ「神田の建物一」、「神田の建物二」という。以下、両建物を併せて「神田の各建物」といい、神田の各土地と併せて「神田の物件」という。)を七四五万一一〇〇円で売買する旨の契約も締結され、その購入代金も、本件被相続人名義の右五〇億円の借入金から支払われた。なお、本件被相続人が立替払した本多地所の右神田の各建物の購入代金相当額は、日本橋の建物の場合と同様に、同日、本多地所から本件被相続人へ返済された。

(6) 本件被相続人は、神田の物件の売買を了した後、本件借入金を原資として抵当証券一三億三九〇〇万円を購入した。

また、本件借入金を原資として額面合計二二億円の定期預金を三井銀行新宿支店で設定したが、右定期預金には三銀モーゲージの質権が設定された。

(7) 以上のとおり、本件被相続人は、本件借入金を原資として日本橋の物件及び神田の物件の購入等をしているが、その購入代金の支払等の明細は次のとおりである。

ア 日本橋の土地の購入代金 二四億九四八三万四五〇〇円

イ 日本橋の建物の購入代金 五一六万五五〇〇円

ウ 三銀モーゲージへの借入手数料 五一九〇万円

エ 日本橋の物件の登記費用 三二〇〇万円

オ 日本橋の土地の売買仲介手数料 三七五〇万円

カ 神田の各土地の購入代金 三〇億九二五四万八九〇〇円

キ 神田の各建物の購入代金 七四五万一一〇〇円

ク 神田の物件の登記費用 二八〇〇万円

ケ 三銀モーゲージへの借入手数料 五一九〇万円

コ 神田の各土地の売買仲介手数料 四六三〇万円

サ 三銀モーゲージへの借入金利息の支払 八五二七万三九七二円

シ 抵当証券の購入代金 一三億三九〇〇万円

ス 定期預金 二二億円

セ 本多地所への貸付金 一五五五万〇九七八円

ソ ホンダ開発への貸付金 四億三〇〇〇万円

(二) 日本橋の物件及び神田の物件の利用状況

(1) 本件被相続人は、本件借入金で購入した本件各土地をそれぞれの売買契約日(平成元年一二月二八日及び平成二年二月二二日)と同日付けの賃貸借契約に基づき、以下の条件で本多地所に貸し付けた(以下「本件各貸付け」という。)

ア 日本橋の土地

目的 日本橋の建物の敷地としてのみ使用する目的

賃貸期間 平成元年一二月二八日から平成三一年一二月二七日までの三〇年間

賃料 月額三〇〇万円

権利金の支払の有無 権利金支払についての契約条項はないが、借地人は、賃貸借契約が終了し又は途中解約された場合には、無償にて貸地人に土地を返還する旨の特約がある。

イ 神田の各土地

目的 神田の建物二の敷地としてのみ使用する目的

賃貸期間 平成二年二月二二日から平成三二年二月二一日までの三〇年間

賃料 月額三九〇万円

権利金の支払の有無 権利金支払についての契約条項はないが、借地人は、賃貸借契約が終了し又は途中解約された場合には、無償にて貸地人に土地を返還する旨の特約がある。

(2) 日本橋の建物の利用状況

ア 日本橋の建物のうち、一階部分の七二・〇九平方メートルは、本件被相続人が日本橋の土地を取得した平成元年一二月二八日当時は空室となっていたが、二階部分ないし四階部分は、後記のとおり、個人二名及び会社三社がそれぞれ元の所有者である富永徳生ほか三名からその一部を賃借していた(以下「右賃借人を「本件賃借人」という。)本多地所は、平成二年二月ころ、クリエイトビューローとの間で、前記(一)(4)記載の明渡しの交渉を行わせ、明渡しまでの間日本橋の建物を管理させるという趣旨で、各賃借人の家賃その他電気、水道料金の集金を含めた同建物の管理を委託する旨の業務委託契約を締結した。

さらに、同建物の二階部分ないし四階部分の明渡し交渉の進展具合が思わしくなかったことから、本多地所は、右業務委託契約の趣旨を実効あらしめるため、平成二年四月二〇日付けの賃貸借契約により、同建物の一階部分をクリエイトビューローに対し、月額賃料三〇万円で賃貸した(弁論の全趣旨)。

イ 同建物の二階部分の七二・〇九平方メートルのうち共用部分を除いた約六六平方メートルは、伊藤満寿雄が元所有者である富永徳生ほか三名から賃借していたところ、右伊藤は、共有者の田村裕美から平成元年一月一〇日付けで右二階部分の明渡し請求を受けたが、平成元年一月一九日付けでこれを拒絶し、賃借料の供託を行いながら右二階部分の使用を継続し、本件相続開始時においても同部分を使用していた(弁論の全趣旨)。

ウ 同部分の三階部分七二・〇九平方メートルのうち共用部分を除いた約六六平方メートル及び四階部分のうち約一二平方メートルは、有限会社ひばり治療院が富永徳生ほか三名から賃借していたところ、同会社は、共有者の田村裕美から平成元年一月一〇日付けで、富永らより右建物を取得したクリエートビューローから平成元年九月一日付けでそれぞれ明渡し請求を受けたが、これを共に拒絶し、右三階、四階部分の使用を継続し、本件相続開始時においても同部分を使用していた(弁論の全趣旨)。

エ 同建物の四階部分のうち一三・二二平方メートルは、田代昭が富永徳生ほか三名から賃借していたところ、右田代は、共有者の田村裕美から平成元年一月一〇日付けで、富永らより右建物を取得したクリエートビューローから平成元年八月三一日付けでそれぞれ明渡し請求を受けたが、これを共に拒絶し、右四階部分の使用を継続し、本件相続開始時においても同部分を使用していた(甲一六及び弁論の全趣旨)。

オ 同建物の四階部分のうち二三・一四平方メートルは、東興産業貿易株式会社が富永徳生ほか三名から賃借していたところ、同会社は、共有者の田村裕美から平成元年一月一〇日付けで右四階部分の明渡し請求を受けたが、同月三〇日付けでこれを拒絶し、右四階部分の使用を継続し、本件相続開始時においても同部分を使用していた(弁論の全趣旨)。

カ 同建物の四階部分のうち一三・二二平方メートルは、株式会社佐和産業が富永徳生ほか三名から賃借していたところ、同会社は、共有者の田村裕美から平成元年一月一〇日付けで右四階部分の明渡し請求を受けたが、同月三〇日付けでこれを拒絶し、右四階部分の使用を継続し、本件相続開始時においても同部分を使用していた(弁論の全趣旨)。

(3) 神田の各建物の利用状況

本件被相続人が神田の各土地を取得した当時、神田の各建物は空き家の状態であったところ、本多地所は、平成二年二月二二日付けでホンダ開発との間で神田の建物二について賃貸借契約を締結した(甲五八、証人信悟及び弁論の全趣旨)。そして、本件相続開始時においては、神田の建物二はホンダ開発が使用していた。

(三) 本件借入金の借替え

(1) 平成二年三月ないし四月ころに、信悟から三銀モーゲージに、本件借入金のうち一〇億円ほどを信悟の海外不動産事業の投資に流用したい旨の申し入れがされた。

これに対し、三銀モーゲージは、<1>同社は本件被相続人に対して一〇〇億円を融資したのであって、信悟に対する融資ではないこと、<2>右申出は当初の融資目的とは使途が異なることに加え、本多家が当初購入を予定していた三物件のうち一物件は未購入であること、<3>海外不動産への投資では貸付債権の保全が図れないこと及び<4>そもそも海外不動産では抵当証券発行ができないことから右申出を断ったが、再度、信悟から強い要請があり、結局、本件借入金の保証人である原告の了解を得た上で信悟の右申出を了承し、本件借入金から八億五〇〇〇万円を信悟の事業に流用することに応じた(甲五八、乙六、弁論の全趣旨)。

(2) 信悟は、本件借入金の流用に関して右(1)記載のとおり三銀モーゲージとの間でトラブルがあったことなどから、本件相続開始の後である平成二年八月二〇日、本件借入金の期日前返済を行う旨を原告を代理して三銀モーゲージに申し入れ、同社はこれを了承した。

そこで原告は、かねてから融資の相談を進めていた東海銀行に対し、平成二年九月一二日に、返済期限を平成五年九月三〇日とする一二〇億円の借入れの申込みを行い、同月中に同行から一二〇億円の貸付けを受けた。

原告は、同月二六日に、右借入金のうち八四億五九三四万五九三八円と前記(一)(7)のシ記載の抵当証券の売却代金一三億七八五一万三七三五円及び同ス記載の定期預金の解約払戻金一三億五〇二三万二五〇八円との合計一一一億八八〇九万二一八一円を原資として本件借入金(元金及び利息等)一〇四億四八五二万七三九三円の返済を行った。

また、原告は、同月二〇日、右東海銀行からの借入金を原資として、次に掲げる第一勧業銀行からの借入金合計一五億四八七〇万円を返済した。

ア 本件被相続人の借入金一億七四二〇万円

イ 原告の借入金三億二四〇〇万円

ウ 平蔵の借入金五〇五〇万円

エ ホンダ開発の借入金一〇億円

三  争点及び及び争点に関する当事者の主張

本件の争点は、本件相続開始の直前において、本件各土地が本件特例にいう「被相続人の事業の用に供されていた宅地」(事業用宅地)に該当するか否かであり、この点に関する当事者の主張は次のとおりである。

(原告の主張)

1 本件特例にいう「事業」に該当するといえるためには、<1>資産と勤労の結合による業務であること、<2>事業主の危険と計算において独立して営まれる業務であること、<3>事業主の危険と計算において設定した期間を単位として対価を得て行う経済活動、すなわち、営利性、有償性を有する経済活動の総体であること、<4>反覆継続して遂行する意思すなわち相当期間継続して行うことが客観的に認められること、<5>事業主の危険と計算において企画された経済活動の総体を主宰する社会的地位が客観的に認められることの五つの要件を満たすことが必要であり、また、これをもって足りるというべきであり、右の「事業」といえるために必要な営利性とは、対価性(所得税法施行令六三条一二号)が認められることをもって足りると解される。

また、仮に対価性とは異なる意味での営利性が要求されるとしても、営利性とは、営利を目的とすることをもって足り、現実に利益が発生していることや相当な対価を受領していることまでは必要でないと解さなければならない。なぜなら、通常の経済活動において、期待または予期に反して損失を被ることがあるのは当然であって、損失を被ったという結果から当該取引を事業でないとすることは到底許されないからである。これは、例えば小売業において値上がりを期待して高値で仕入れた商品が、反対に値下がりをして小売業者が損失を被ったとしても、当該取引の「事業性」が失われないことからも明らかである。さらに、不動産業において、土地を購入して建物を建築し、建築した当該建物を賃貸するということが、不動産業者においてごく一般的に行なわれている経営活動であることからすれば、当該不動産のみの収支計算において利益が生じなかったとしても、それをもって当該不動産の貸付けのみが事業でないと解することはできない。なぜなら、購入・建築した当初においては、当該土地及び建築した建物のみの収支計算では、利益は生じないのが通常であるからである。この理は大手不動産業者においても同様である。取得した当該不動産についてのみの収支計算において利益が生じていることを「事業性」の要件とする被告の主張は、不動産業界においてごく一般的に行なわれている経済活動の事業性を否定するものであり、社会一般に使用されている「事業」という言葉の意義から著しく乖離した解釈であり、税法の解釈において最高法原則の一つとして要求される法的安定性及び予測可能性を否定するもので、到底首肯できる解釈ではない。

そして、被相続人の行っていた行為が本件特例にいう「事業」に該当するか否かを判断する基準時は相続開始の直前であるというべきであるが、その判断の対象となる時期は、相続開始の直前の一時期のみをとらえるのではなく、その時点に立って、事業性の判断に必要にして十分な前後の期間を含むものと解すべきである。そして、どの位の長さが必要にして十分な期間であるか否かは、経済人の合理的な判断基準によるべきであると同時に、単に外形的、有体的、数量的な面のみでなく、相続開始の直前の時点に立って、当該被相続人の主観的な意思、目的、動機をも総合して判断されるべきである。また、その判断の基礎とすべき事実は、相続開始の直前にまでに現に生起している事実に加え、その時までに、その原因となる事実が存在したところの将来生起する事実を含むと解すべきである。

2 本件各貸付けは本件特例にいう「事業」としての要件を満たしているかどうかについて

(一) 本件被相続人の行っていた事業の内容と規模

本件被相続人は、永年墨田区八広地区において土地及び家屋を賃貸して賃料収入を得るという形態の不動産賃貸業を営んでいたが、昭和六〇年頃から、自己の資産を運用して積極的な事業展開及び経営の多角化を進めることを考えるようになった。本件被相続人が企図した経営は、従前の墨田区八広地区における不動産賃貸業に加えて、集合住宅の建築・賃貸、立体駐車場の建築・賃貸、都心での貸しビル事業の展開、国内及び海外におけるリゾートクラブの経営等の事業であった。すなわち、本件被相続人は、本件相続開始の直前において、墨田区八広地区で約八〇件の貸地事業を営んでおり、この不動産貸付けにかかる賃料収入として死亡直前の昭和六三年、平成元年において年平均で金九八八八万三二五五円を取得していた。このほかに、本件被相続人は、同人が所有していた東京都墨田区八広四丁目一四七番ほかの土地に、東京都住宅供給公社の有料民賃制度の適用を受けてマンション(大関マンション)及び付属駐車場等を建築したり、立体駐車場を建築、運営したり、また、海外においては、グアム、ロサンゼルス、カナダにおいて、会員制リゾートクラブ等の経営を中心として、ツーリスト業務、ホテル経営、ゴルフ会員権の販売等各種のサービス事業を行なうという壮大な計画を有していた。本件被相続人は、本件各土地を取得し、日本橋の建物及び神田の各建物(以下「本件各建物」という。)を取り壊し、神田の各土地に隣接する別紙物件目録二の5記載の土地(以下「神田の土地三」という。)及び同目録二の6記載の土地(以下「神田の土地四」という。)を取得した上、本件各土地等の上にビルを新築し、これを賃貸する計画(以下「本件ビル新築計画」という。)を有していたが、同計画は、本件被相続人が構想していた右事業計画の一環として予定されていたのである。

右のとおり、本件各貸付けは不動産賃貸事業として本件被相続人の事業の一環をなすものであるから、本件特例の適用に当たっては、墨田区八広地区における不動産賃貸業を含め、本件被相続人が行っていた事業の全体をみて判断すべきである。

(二) 本件ビル新築計画

(1) 本件被相続人は、かねてより都心で貸しビル事業を行いたいとの希望を有していたところ、昭和六〇年頃から始まった好景気を新たな事業展開を図る好機と考えたことや本多家の資産の継承を図る目的などから、同人が所有していた墨田区八広地区の広大な土地を利用した再開発計画と併せて、本件各土地の隣地を取得した上で本件各土地と併せた画地の上に、より高額な収益を上げることが可能なビルを建築する計画(本件ビル新築計画)を有していたのである。本件被相続人は、そのために本件各土地を購入したのであり、日本橋の土地については、新たなビルの建築費としては一億九一三七万七〇〇〇円が予定され、さらに、隣地の購入の可能性を模索していたし、神田の各土地については、新ビルの利用効率、価値の点からみて、神田の土地三及び四及び別紙物件目録二の7記載の建物(以下「神田の建物三」という。)を取得することが売買契約の前提条件となっており、これらの土地の購入を前提として、新たなビルの建築費として約二億一八三五万六三〇〇円が予定されていたのである。そして、本件ビル新築計画が実現されれば、一坪当たり一〇万円の賃料収入を得られる上、年七パーセントの賃料の上昇が見込まれていたし、本多地所は本件被相続人の同族会社であって、地代の値上げも容易であった。したがって、本件各貸付けは、その収支を計算すると、六年目にして利益が計上される見込みであり、営利性を有するものと評価できる。また、本件被相続人は、本件ビル新築計画を有しており、本件各土地を将来にわたってその事業の用に供するつもりであったのである。そして、本多地所が本件各建物を賃貸しているのは、本件ビル新築計画を実行するまでの有効利用の一環としての措置にすぎないから、右貸付けは、本件ビル新築計画と何ら矛盾しないのである。

(2) 本件ビル新築計画の内容は、当時発注して作成されていた日本橋の建物の建替えに関する設計図(甲一四の1ないし4)によっても明らかである。この点、被告は、右設計図と一体をなす案内図(甲一四の4)に平成二年四月一日に発足した「太陽神戸三井銀行」の記載があることから、同設計図が平成元年五月に作成されたということはあり得ず、後に日付けを遡らせて作成されたものである旨主張するが、右設計図の作成者であるT・S企画設計による作成当初には、甲四八のように設計図だけであったが、これに後から案内図を添付して合成する際に、B四サイズの一枚に収まるように、甲四八の上の部分を切取ってずらして貼り付けたものであるから、右案内図に「太陽神戸三井銀行」との記載があるからといって、甲一四の1ないし3及び甲四八が後に日付けをさかのぼらせて作成されたものということはできない。このように、本件ビル新築計画が現に存在したことは厳然たる事実であるから、本件各貸付けが「事業」としての要件を満たしているか否かを判断するに当たっては、本件ビル新築計画の存在が考慮されなければならない。

なお、確かに、右設計図を基にした原告の賃貸面積の計算とそれに基づく収支の予想は、ややあいまいではあるが、本件相続開始の直前においては、イメージ・デザインの段階にすぎなかった日本橋の建物の建替え計画のためには、それで足りたのであり、また、神田の各建物の建替えに関しては、イメージ・デザインの段階までも至っていなかったのであるから、賃貸面積の計算とそれに基づく収支の予想がややあいまいとなることは致し方ないことであり、それで十分足りたのである。

(三) 本件各貸付けが「事業」の要件である営利性、有償性を有するか

本件ビル新築計画を含め、本件被相続人が企図していた各事業の収入と必要経費は別紙1記載のとおりであり、本件各土地の購入のための借入金に係る借入利息等を考慮しても、本件各土地の賃貸事業は、当時の状況下では六年程度、固定資産税の上昇割合等によっても二〇年程度経過すれば黒字に変わる見込みであった。

前記(一)で述べたように、本件被相続人が企画していた事業は、多角化された壮大なもので、その収支においても、利益が生じることが十分に見込まれていた。本件各土地の取得は、かかる事業の一環として行われたものであり、本件被相続人が事業の展開を行っていた事実及びかかる事業展開が営利を目的として行われた事実にかんがみれば、その一環としてなされた本件各土地の購入及び賃貸が、営利を目的として行われていたことは明らかである。

被告は、本件各貸付けが事業として成り立たないとして収支計算をしているが、本件相続開始の直前はいわゆるバブル経済のまっただ中であったのだから、その時の状況を基に数値を当てはめ、将来の予測を立てて計算すべきである。しかも、銀行実務においては、利息は、前取りではなく後取りであるから、一年目の支出超過額をA銀行から一年目に借りた場合、これに対する利息Xは二年目に生じ、この分を二年目にB銀行から借りてA銀行に支払うから、利息Xが負債総額に含まれてくるのは二年目であって一年目ではないのであり、被告の行った収支計算はこの点を看過しており、誤りである。

(四) 本件各貸付けが「事業」の要件である継続性を有するか

(1) 本件被相続人は、本件各土地を取得し、本件各建物を取り壊し、隣地である神田の土地三及び四を取得した上、本件各土地等の上にビルを新築し、これを賃貸する計画(本件ビル新築計画)を有しており、右計画に着手できるまでの間の措置として本件各貸付けを行うこととしていたものであり、また、これらが本件被相続人の行っている墨田区八広地区における不動産賃貸事業等の各種事業の一環としてなされていたことは、前記(一)に述べたとおりであり、したがって、本件各貸付けが「事業」といえるための要件である継続性を有することは明らかである。

(2)ア 被告は、本件各土地は、そもそも、事業の用に供する目的で取得されたものではなく、単に相続税を回避する目的で取得されたものであって、本件被相続人は本件各土地を短期間のうちに売却することを予定していたとして、本件各土地についての本件被相続人の業務に継続性は認められないと主張し、その根拠として、<1>そもそも本件ビル新築計画が存在していたとは認められないこと、<2>本件各土地の購入、貸付け及び本件各建物の購入は、「<秘>本多家・究極の相続税対策」と題する書面と同内容のマニュアルに則って行われたものと認められること、<3>本件借入れに係る貸主である三銀モーゲージの担当者は、右借入れの申込みを行った岡部から、「借入れの目的が相続税対策のため土地の購入に充てる」資金の調達にある旨聞いており、貸付側としては、右借入れの返済は、土地の売却代金をもってする以外にはないと考えていたこと、<4>東海銀行あての原告名義の借入金返済計画書には、「当初計画」(平2・8)と記載されており、平成二年八月時点での計画であることがうかがわれるところ、同計画書に本件各土地等の売却の計画が記載されていること、<5>現に、平成三年八月一日に株式会社ナイタイが日本橋の物件を一七億円で買い付ける旨の不動産買付証明書を出したところ、原告は、翌日である同月二日にこれを東海銀行にファックスしており、原告らが資金繰りの必要から日本橋の物件の売却を考えた事実が認められることを挙げる。

しかしながら、以下に述べるとおり、本件被相続人には、本件各土地を短期間のうちに売却する予定はなかったというべきであるから、被告の右主張には理由がない。

イ 前記(二)で述べたとおり、本件ビル新築計画が存在したことは厳然たる事実であるから、被告の主張<1>は著しく事実を誤認するものである。なお、本件ビル新築計画が計画段階にとどまっていたからといって、本件ビル新築計画を無視して継続性を否定する被告の主張は妥当ではない。

ウ 被告の主張<2>の「<秘>本多家・究極の相続税対策」と題する書面は、マニュアルではなく、正体不明で脈略のない文書八部の寄せ集めであり、表紙と二枚目は、原告も信悟も初めて見るものであること、本件各土地の取得には岡部は関与しておらず、「<秘>本多家・究極の相続税対策」と題する書面の四枚目の岡部のシュミレーションは本件各土地を取得した後である平成二年三月時点のものであることに照らし、右主張は根拠を欠くものといわざるをえない。

エ 被告の主張<3>は、相続税対策のための土地購入であるから、借入金の返済のためには土地の売却しかないというものであり、それ自体論理の飛躍であり、到底首肯できるものではない。なぜなら、相続税対策を図りながら、購入した土地を事業の用に供することは何ら矛盾するものではないからである。

かえって、本件被相続人は、三銀モーゲージから本件各土地の購入代金等を借り入れる際に、同社との間で借入後三年を経過した後初めて到来する四月一日又は一〇月一日に利率の見直しをすることを約定していることからすれば、本件借入れが弁済期の延長契約を行なうことにより長期間継続することを予定したものであったことは明らかである。約定期間を三年としたのは、利息の見直し及び墨田区八広地区における本件被相続人の再開発事業に伴って、いわゆる玉替えの必要性があったからにほかならない。

また、そもそも長期間の借入れを予定していないのであれば、あえて抵当証券を用いた借入れを行なう必要性はなく、長期間の借入れを予定していたということは、本件各土地を本件被相続人の継続的事業の用に供することを目的として取得したこと、すなわち本件借入金の返済のため土地を売却することは予定していなかったことの証左であり、被告の右主張には理由がない。

オ 被告の主張<4>は、東海銀行あての原告名義の借入金返済計画書の作成年月日を誤認するものである。すなわち、同計画書は、平成二年八月一五日に作成されたものではなく、実際の作成は、バブルが崩壊し不動産の値下がりが顕著になった後の平成三年九月一四日である。このことは、同計画書には、日本橋の土地の鑑定評価額として一七億円との記載があるところ、これは平成三年八月一日に株式会社ナイタイがホンダ開発に対して差し入れた不動産買付証明書に記載された価額と同一であるから、借入金返済計画書の作成が平成三年八月一日以降であると認められることに照らしても明らかである。

カ 被告の主張<5>の不動産買付証明書は、本多地所がクリエイトビューローに対し、日本橋の建物の賃借人との立退き交渉の進展が思わしくないので、売買契約の解除あるいは損害賠償を要求して話し合いを持った中で出てきたものである。信悟はこれを「こんな話があった」という意味で東海銀行へファックスしたものであり、原告が日本橋の物件の売却を図ったものではないから、右主張は失当である。

(3)ア また、被告は、本件各建物は、本件被相続人が本件各土地を取得した時点から取壊しが予定されていたものであり、本件各建物の賃貸借自体が本件ビル新築計画を実行に移すまでの間の有効利用の一環としての措置にすぎないことを理由に、本件各建物の所有のためにされた本件各貸付けには継続性は認められない旨主張する。

しかし、本件被相続人が、本件各土地上にビルを新築する計画を有していたとしても、そのことをもって本件各貸付けの継続性を否定する根拠とはならない。理由は以下に述べるとおりである。

イ まず、本件各建物のうち日本橋の建物については、本件相続開始の直前においても二階ないし四階部分の借家人との間で立退き交渉が成立しておらず、本件ビル新築計画に実際に着手するまでには相当の期間を要する状況にあった。また、本件被相続人は、日本橋の土地についても、隣地の取得を計画しており、ビルの新築は隣地を取得した後、あるいは隣地の取得の可能性がなくなったときとなる計画であった。

他方、神田の建物二については、本件相続開始の直前においてすべてホンダ開発が使用していたが、本件被相続人は神田の各土地に加えてこれに隣接する神田の土地三及び四も取得してビルを新築する計画を有しており、本件相続開始の直前においても右隣地の取得のための交渉が継続中であったため、日本橋の建物と同様、本件ビル新築計画に実際に着手するまでには相当期間を要する状況にあった。

したがって、日本橋の建物についても、神田の各建物についても、本件相続開始の直前においてその取り壊し時期が確定していたものではなかったのである。そして、本件被相続人は、未確定の建物取壊し時期が到来するまでは、当然に本件各土地又は本件各建物から賃料収入を得ることを予定し、かつ実際に賃料収入を得ており、また神田の各土地については、本件相続開始の直前においてホンダ開発が、海外リゾートクラブ経営の拠点として使用していたのである。

以上の次第で、本件被相続人が、本件ビル新築計画を有していたことは、何ら本件各貸付けが継続性を有することの妨げとはならない。

ウ また、相続開始の直後に当該不動産に対する賃貸借契約が終了することが予定されている場合であっても、以後も他の賃借人に賃貸することが予定されている場合は、当該不動産は賃貸人たる被相続人の不動産貸付業の用に供されているものと解されなければならない。なぜなら、一つの賃貸借契約が終了しても新たに賃貸借契約が締結されることが予定されている場合は、その前後を通じて当該不動産が不動産賃貸業という事業の用に供されていることに変わりはなく、事業の継続性は何ら阻害されないからである。

すなわち、「事業」の要件として継続性が要求されるのは、被相続人の経済活動そのものに対してであり、特定の取引行為(賃貸借契約)に対して、継続性が要求されるわけではなく、ある建物につき将来建替えの予定があっても、建て替えるまでの期間これを賃貸し、あるいは同族会社が業務のために使用していることは、営利を目的として継続的に行われる経済活動、すなわち事業の一環として行われている行為であり、建物が将来建替え予定であることをもって、事業の用に供していることを否定することはできない。仮に被告主張のように、事業の継続性を特定不動産を目的とする特定賃貸借契約の継続性と解すると、例えば学生相手のアパートを経営している者が、学生の卒業時期の直前に死亡した場合、卒業する学生との賃貸借契約が終了することにより、新学期に新たな学生の入居が予定されていても、当該アパートの敷地たる土地が事業の用に供されているものと認められなくなるという不合理を生ぜしめるのであり、被告の右主張が妥当でないことは明らかである。

本件被相続人は、本件各建物を取り壊す計画を有していたが、その後新たにビルを建築した上で賃貸借契約を締結して事業を営むことを予定していたのであり、本件ビル新築計画が存在したことをもって、本件各貸付けの継続性を否定する根拠とはすることはできない。

3 本多地所が日本橋の建物及び神田の建物二を賃貸していることをもって本件各土地が本件特例にいう事業用宅地に該当すると評価できるかどうか

本件相続開始当時における課税実務上、本件被相続人等が所有する建物が貸付けられていた場合にその敷地が事業用宅地に当たるか否かについては、(1) 貸間、アパート等については、貸与することのできる独立した室数が概ね一〇以上あること、(2) 独立家屋の貸与については、概ね五棟以上であることのいずれか一に該当する場合は事業として行われているものとされており(措置法通達六九の三―一)、また、被相続人の同族会社の事業の用に供されていた宅地についても、同族会社の事業は、経済的・実質的には被相続人の事業と同一視できるものであるとして、被相続人等の事業用宅地に当たるものとして取り扱われていた(措置法通達六九の三―六)。

本件相続開始の直前において、日本橋の建物はクリエイトビューロー等に対し、神田の建物二はホンダ開発に対し、それぞれ貸し付けられていたものである。確かに、いずれの建物も、本件被相続人ではなく本多地所が所有していたため、措置法通達六九の三―一には直接該当しないが、だからといって本件各土地が本件被相続人の事業用宅地に当たらないとするのは妥当でない。すなわち、右各貸付けが本件被相続人の事業に当たるか否かは、措置法通達六九の三―六により、右貸付けが個人である本件被相続人によって行われていたものとした場合に事業として行われていたと認められるかどうかによって判断されるところ、本件被相続人は、墨田区八広地区において土地及び家屋を賃貸して賃料収入を得るという不動産賃貸業を営んでおり、これは措置法通達六九の三―一に定める形式的な基準を満たすものである。そして、本件各建物の本多地所による各貸付けは、かかる不動産賃貸業のの一環をなしているものであるから、右各貸付けは本件被相続人の事業と同一視できるものである。

なお、右各貸付け自体が営利性、継続性を有することについては、本件各貸付けの場合と同様の理由により認められる。

(被告の主張)

1 本件特例が規定する「事業」に関しては、措置法及び相続税法には定義規定等特別の定めがないことから、「事業」の意義については、税法の一般概念及び本件特例の制定の趣旨・目的により解釈すべきところ、一般的に、所得税法に定める事業は、「自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務」と解されており、本件特例にいう「事業」も右と同義に解するのが相当である。

そして、不動産貸付けにおける「事業」の意義も、右の一般的な考え方を前提に検討されるべきである。すなわち、不動産の貸付けが「事業」といえるか否かは、「営利性、有償性の有無、継続性、反復性の有無、その取引に費やした精神的あるいは肉体的労力の程度、人的、物的設備の有無、その取引の目的、その者の職歴、社会的地位、生活状況」などの諸点を総合して、社会通念上事業といい得るか否かによって判断されるべきであるところ、右の要件である営利性、有償性、反復継続性ということから当然の帰結として「相当の対価を得て継続的に貸し付けられること」が必要であると考えられるのであり、「相当の対価」かどうかについては、貸付けをした資産の減価償却費、固定資産税その他の必要経費を回収した後において、なお相当の利益が生ずるような対価を得ているかどうかによって判定するのが相当である。

そして、本件特例の適用の可否を判断する基準時は「相続開始の直前」であって、本件特例にいう事業用宅地に該当するか否かは、相続開始の直前における事実関係を基に判断しなければならないから、「事業」に当たるか否かの判断は、相続の開始の直前において客観的に存在していた事実を基に行うべきであり、本件においては、本件被相続人が本多地所に対し本件各土地を貸し付けているという事実を前提に本件特例が適用になるか否かを判断しなければならない。

建物が賃貸借の事業の用に供されていたというためには、賃貸借契約の締結が必要と解され、それ以前の段階では、原則として、単に賃貸事業の準備行為にすぎず、事業の用に供したということはできないというべきであり、例外的に、本件相続開始当時の課税実務上、事業場の移転又は建替えのため被相続人の事業の用に供されていた建物を取り壊し、又は譲渡し、これらの建物に代わるべき建物で被相続人の事業の用に供されると認められるものの建築中に、又は当該建物の取得後被相続人等が事業の用に供する前に被相続人について相続が開始した場合には、相続税の申告書の提出期限までに当該建物を事業の用に供しているとき、又は、相続税の申告書の提出期限において当該建物を事業の用に供していない場合であっても、それが当該建物の規模等からみて建築に相当の期間を要するため、建物が完成していないことによるものであるときは、当該建物の完成後速やかに事業の用に供することが確実であると認められるときに限って、本件特例の適用を受けることができることとなっている(措置法通達六九の三―八)。

2 本件各貸付けは本件特例にいう「事業」の要件を満たしているか否かについて

(一) 本件各貸付けが「事業」の要件である営利性、有償性を有するか

本件各土地は、本多地所へ貸し付けられており、形式的には本件被相続人の行っていた賃貸事業に供された土地の一部となっているかのようにもみえるが、これらの貸付けに関しては収益性が全くないどころか、以下に述べるとおり、大幅な損失を招き、著しく経済的合理性を欠いているものであって、到底、本件各貸付けに営利性を認めることはできない。

(1) 本件各土地の賃料の月額は、日本橋の土地が月額三〇〇万円、神田の各土地が月額三九〇万円であるから、本件各土地の賃貸料収入の年額は八二八〇万円である。

(2) 他方、本件各土地の購入資金である本件借入金に係る利息等の額は次のとおりである。

本件各土地の購入資金である本件借入金の約定金利は変動金利であり、三銀モーゲージは、貸付実行から三年目ごとに金利の改定を行うこととしていたが、本件借入金の返済が三年後の一括弁済であるため、実質的には固定金利による借入金と同視できる。そうすると、平成元年一二月二八日の借入金五〇億円に対する借入利率が年七・五パーセント(利率六・五パーセント+管理保証料一・〇パーセント)であるから、右借入金については、半年ごとに一億八七五〇万円、一年間に三億七五〇〇万円の利息等の支払が必要となる。また、右と同様に、平成二年二月二二日の借入金五〇億円に対する借入利率が年八・五パーセント(利率七・五パーセント+管理保証料一・〇パーセント)であるから、右借入金については、半年ごとに二億一二五〇万円、一年間に四億二五〇〇万円の利息等の支払が必要となる。

このように、本件被相続人は、本件借入金に対して半年ごとに合計四億円の利息等を支払うこととなるのであり。右利息等の金額のうち本件各土地の取得価額(本件各土地の取得の対価の額及び取得に係る仲介手数料の額の合計額)に対応する金額だけをみても、日本橋の土地について九四九六万二五四四円、神田の各土地について一億三三四〇万一〇七八円となる(いずれも一円未満の端数は四捨五入)。

したがって、本件各土地の取得価額に対応する利息等の半年間の金額は右合計額の二億二八三六万三六二二円であり、一年間には四億五六七二万七二四四円となる。

(3) ところで、本件被相続人は、本件各土地を取得し、これを本多地所に賃貸することによって、前記(1)記載のとおり年間八二八〇万円の収入を得ることとなるが、これから右借入利息等の支払額四億五六七二万七二四四円を控除すると、年間三億七三九二万七二四四円もの損失を被ることとなり、しかも、本件各土地の賃貸料が三年間据置きであることから、この状態は向こう三年間変わらないことが明らかであるとともに、将来においても異常に高額な賃貸料を収受しない限り、このような状態が変わることはないのである。

(4) 本件被相続人の昭和六〇年ないし平成元年の五年間の収入をみると、本件被相続人は、年間二五〇〇万円程度の賃貸料収入(礼金、権利金、更新料等の臨時的な収入を除く五年間の平均金額。別表10の<1>欄)を得ており、主要な必要経費としては固定資産税等の租税公課約一一〇〇万円がある(別表10の<5>欄)から、既存の墨田区八広地区の不動産貸付けにより年間一四〇〇万円程度の収益を得ていたものと認められる。

右(3)の本件各土地の賃貸料収入と必要経費の利息等の金額を右の既存物件の賃貸料収入及び必要経費にそれぞれ加算すると、右の既存の賃貸物件からの収益が消滅した上、実に年間三億五九〇〇万円余りの損失が生じることとなり、この状態が長く続くこととなるのであって、この従前の賃貸料収入及び本件各土地の賃貸料収入では本件借入金の元本はおろか、利息等の支払さえ不可能である。このことは、平成二年分の本件被相続人に係る不動産収支の内容が如実に表している。

(5) 後記(三)記載のとおり、本件各貸付けが本件特例にいう「事業」に該当するかどうかの判断に当たっては、墨田区八広地区における不動産の貸付けとは別に本件各貸付け自体によって判断すべきであるが、仮に、右事業性の有無の判断に当たって、本件各貸付けに限られず、本件被相続人が墨田区八広地区において行っていた不動産賃貸事業を考慮に入れるべきであるとしても、本件借入金の利息等の支払いが莫大なため、別表11に算定したとおり、(その算定根拠は別紙2及び別表12記載のとおりである)、年々支出超過額及び借入金残高が増加していくのであって、収益性が全くないどころか、大幅に損失を招く結果となるものであり、著しく経済的合理性を欠いており、およそ営利性を有するものとはいえないのである。

(6) 原告は、本多地所が取得した本件各土地を取り壊した上、本件被相続人が本件各土地等の上にビルを建築・所有し、これを賃貸事業の用に供する計画があったのであり、この計画によれば、本件各土地に関して当時の状況下では六年程度、固定資産税の上昇割合等によっても二〇年程度経過すれば収益が計上される見込みであった旨主張する。

しかし、本件特例の適用の可否を判断する基準時は相続開始の直前であって、本件特例にいう事業用宅地であるか否かは、相続開始の直前における事実関係を基に判断しなければならないから、本件においては、本件被相続人が本多地所に本件各土地を貸し付けているという事実を前提に本件特例が適用になるか否かを判断しなければならないのである。また、仮に、本件被相続人が原告の主張するような本件ビル新築計画を有していたとしても、それが単に計画の段階にとどまっていた以上、賃貸事業の準備行為にすぎず、本件特例が適用となるか否かの判断には何ら影響を与えるものではないことは、後記(四)に述べるとおりである。したがって、原告の右主張は失当である。

さらに、仮に本件ビル新築計画が存在するとして、その存在を事業性の判断に当たって考慮するとしても、現実的に予想される収支計算をすると、別表13に算定したとおり(その算定根拠は別紙3及び別表14記載のとおりである)、年々支出超過額及び借入残額が増加していくのであって、収益性が全くないどころか、大幅に損失を招く結果となるものであり、著しく経済的合理性を欠いており、およそ営利性を有するものとはいえないのである。この点、原告は、固定資産税の上昇割合等により五年ないし二〇年で収支が均衡し、黒字へ移行する事業を企画していた旨主張するが、右主張は、本件各土地の賃料収入が年五パーセントずつ上昇することが継続するなど、常識的に考えて到底無理な事実を基にしていること、前提となっている借入期間五〇年、元金の返済据え置きという有利な条件での借入れが現実にできるのか極めて疑わしいこと、年々の支出超過額については、当然新たな借入れによらざるを得ず、この新たな借入れのための利息も同様、借入れることとなり、これにまた利息がつくといった事情をまったく考慮していないこと等の点で誤りである。

(二) 本件各貸付けが「事業」の要件である継続性を有するか

(1) 土地の貸付けに継続性があるといえるためには、その土地の貸付けによる利用の態様に従って、社会通念上相当の賃貸借期間が予定されていることが必要である。

本件各貸付けの賃貸期間は、契約書上では、日本橋の土地については平成元年一二月二八日から、神田の各土地については平成二年二月二二日から、いずれも三〇年間とされている。しかし、原告は、自ら、本件各建物が、本件各土地を取得した時点から取壊しが予定されていたものであり、本件各建物の賃貸借自体が本件ビル新築計画を実行に移すまでの間の「有効利用の一環としての措置にすぎない」ことを自認しているところである。そして、本件各貸付けは、本件各建物の所有がその目的となっているから、本件各建物が取り壊されてしまえばその目的を失って終了するほかはないのである。

したがって、原告の主張する本件ビル新築計画が仮に存在したとしても、本件各貸付けには継続性が認められないというべきである。

(2) 原告は、本件被相続人が本件各土地を将来にわたってその事業の用に供するつもりであった旨主張するが。本件各土地は、そもそも、事業の用に供する目的で取得されたものではなく、単に相続税を回避する目的で取得されたものであって、本件被相続人は本件各土地を短期間に売却することを予定していたものであるから、右主張は事実に反するものである。

すなわち、後記(四)で述べるとおり、本件ビル新築計画自体、そもそも存在していたとは認められないのであり、このことに加え、<1>本件各土地の購入、貸付け及び本件各建物の購入は、「<秘>本多家・究極の相続税対策」と題する書面と同内容のマニュアルに則って行われたものと認められること、<2>本件借入れの貸主である三銀モーゲージの担当者村上民夫は、右借入れの申込みを行った岡部から、「借入れの目的が相続税対策のため土地の購入に充てる」資金の調達にある旨聞いており、貸付側としては、本件被相続人が右借入金を返済するには、土地の売却代金をもってする以外にはないと考えていたこと、<3>東海銀行あての原告名義の借入金返済計画書には、「当初計画」(平2・8)と記載されており、平成二年八月時点での計画であることがうかがわれるところ、同計画書に本件各土地等の売却の計画が記載されていること、<4>現に、平成三年八月一日に株式会社ナイタイが日本橋の物件を一七億円で買い付ける旨の不動産買付証明書を出したところ、原告は、翌日である同月二日にこれを東海銀行にファックスしており、原告や信悟らが資金繰りの必要から日本橋の物件の売却を考えた事実が認められることからすると、本件各土地は、購入した当初から短期間で売却することが予定されていたものと認められるというべきである。

(3) 原告は、本件各建物について借家人の立退き等の処理が済むまで相当期間を要する状況にあったとし、その理由として、日本橋の建物については、立退き交渉が成立していなかったこと、神田の各建物については、立退きを拒否している借家人は存在しなかったが、本件ビル新築計画に必要な隣地(神田の土地三及び四)の取得のための交渉が続いていたことを挙げており、また、これをもって、本件被相続人が本件各土地上にビルを新築する計画を有していたことが、本件各貸付けの継続性を否定する理由にはならないとしている。

しかし、仮に、日本橋の建物について、立退き交渉が長びいたとしても、立退きを要求すること自体、建物の賃借権の消滅を前提とするものであるし、神田の各建物につき、立退きを拒否する借家人が存在しなかったことは、いつでも神田の各土地の貸付けを消滅させることができる条件が既に充足されていたということであり、隣地の取得の交渉中、右各土地の貸付けの解消を待っているにすぎないものであって、たまたまこれらの事情があったことにより、本件各貸付けの終了がある期間延びたとしても、それにより「事業」の要件である継続性が欠けているという本件各貸付けの実態が変わるものではないのである。

(4) また、原告は、被告主張のように、事業の継続性を特定不動産を目的とする特定賃貸借契約の継続性と解すると、例えば学生相手のアパートを経営している者が、学生の卒業時期の直前に死亡した場合、卒業する学生との賃貸借契約が終了することにより、新学期に新たな学生の入居が予定されていても、当該アパートの敷地たる土地が事業の用に供されているものと認められなくなるという不合理を生ぜしめる旨主張するが、右主張は、次のとおり明らかに誤っている。

すなわち、本件特例の適用の有無は、特定不動産について判断すべきであることは当然であるが、原告の挙げる右事例のように、従来からアパートを学生に賃貸してきた経営者が、一人の賃借人が出て行ったら、次の者を入居させる予定でいたところ、賃借人の変わる直前死亡したとしても、このアパートの賃貸には継続性があり、この敷地が「相続開始の直前事業の用に供されていた」ことは明らかであって、右事例は、明らかに前述のとおりの実態を有する本件各貸付けとは異なるものである。

(5) 本件特例は、個人が相続又は遺贈により取得した財産のうちに、相続開始の直前において、本件被相続人等の事業の用又は居住の用に供されていた宅地等がある場合には、そのうち二〇〇平方メートルまでの部分について、相続税の課税価格に算入すべき価額の計算上、一定の割合を減額するというものであるが、これは、事業又は居住の用に供されていた小規模な宅地等については、一般にそれが相続人等の生活基盤の維持のために欠くことのできないものであって、相続人等において事業又は居住の用を廃してこれを処分することに相当の制約があるのが通常であることから、相続税の課税上特別の配慮を加えることとしたものである。本件各貸付けが、本件特例にいう事業用宅地に該当するかどうかは、右に述べた本件特例の趣旨に照らして判断すべきである。

本件の場合、そもそも本件各土地が短期間のうちに売却されることが予定されている場合には、本件特例の趣旨とする「課税上特別の配慮」を加えるに値しないものであることはもちろんのこと、百歩譲って仮にそのような予定がなかったとしても、本件各貸付けの実態は前述のようなものであり、賃貸人である本件被相続人も、賃借人たる本多地所も、本件各貸付けの当初からその解消に向かって事を運んでいて、右当事者間においては、本件各貸付けを廃し本件各土地を処分しようとした場合、何らの制約もない(日本橋の土地については、これを処分しようとした場合、日本橋の建物の賃借人の退去まである程度の期間を要するという事実上の制約があったとしても、これは常識上限られた時間の問題である。)のであるから、結局、本件各貸付けは、本件特例が特別の配慮を加えることとした「事業」とは趣を異にするものであって、本件特例にいう「事業」に該当しないことは明らかである。

そして、一般に、租税法規については、みだりに拡張解釈することは、租税法律主義の見地に照らし相当でなく、殊に本件特例のような例外的な措置として定められた規定の解釈は、租税負担の公平の観点からも厳格に行われるべきであって、単に契約書上、賃貸借の形式を有するにすぎず、継続する事業としての実体のない本件各貸付けにまで、本件特例を拡張適用するのは相当でない。

(三) 原告は、本件被相続人が東京都墨田区八広地区において不動産賃貸事業を行っていたこと等をもって、本件各土地が本件特例にいう事業用宅地に該当するとのその主張の根拠にしている。

しかし、本件特例にいう事業用宅地といえるためには、当該土地が事業の物的要素となっていたことが必要であり、具体的には、従業員の宿舎の敷地として利用されている場合などのように、直接の収益性・営利性を認め難いものの事業の遂行にとって保有の必要性が認められるなど特段の事情がない限り、当該土地の貸付け自体について営利性、有償性、継続性が客観的に認められる必要性があるというべきである。このことは、本件特例の条文上、被相続人の事業の用に供されていた宅地等であることが要件とされていることからも明らかである。

本件においては、本件各土地に関して本件特例の適用の可否が問題となっているのであるから、あくまで、本件各土地自体について「被相続人の事業の用に供されていた」こと、すなわち、本件各土地が事業の物的要素となっていたという実態の存在することが必要であり、本件被相続人が墨田区八広地区等で不動産賃貸業を営んでいたからといって、本件各土地が本件特例にいう事業用宅地に該当するということはできない。

(四) 原告は、本件被相続人が本件ビル新築計画を有していたことをもって、本件各土地が本件特例にいう事業用宅地に該当するとのその主張の根拠にしている。

(1) しかし、原告が主張する本件ビル新築計画については、<1>その事業主体が誰であったのかについて原告の主張、証人信悟、原告本人の供述が変遷していること、<2>本件各土地及び本件各建物については、それぞれの売買契約書において、建物の賃借人を一定期間内に退去させることが売主の義務とされており、その義務を履行できなかった場合には、契約の解除が予定されているにもかかわらず、中間金等で分割払をすることなく、契約と同時に一括して莫大な代金の全額を支払っていること、<3>特に、神田の各土地について、原告は、神田の土地三、四及び神田の建物三を取得することが売買契約の前提条件となっていた旨主張するが、同土地は萩原ビル株式会社が所有していたものであって右契約は他人の物に関する停止条件付売買であり、しかも所有者である萩原ビル株式会社の意向を示す証拠が存在しないにもかかわらず、三〇億円余りの莫大な土地購入代金を全額支払うことは不可解であること、<4>原告が本件ビル新築計画に関する証拠として提出した設計図(甲一四の1ないし4)は、甲一四の4の案内図に平成二年四月一日に発足した「太陽神戸三井銀行」が記載されていることなどから、甲一四の1に記載された作成日付である平成元年五月に作成されたということはあり得ず、後に日付けを遡らせて作成されたものと認められること等に照らし、現実にそのような計画があったものとは認められない。

(2) 仮に、本件被相続人が原告の主張するような本件ビル新築計画を有していたとしても、それが単に計画の段階にとどまっており、建物の建築に着工すらしていない以上、それは結局のところ、賃貸事業の準備行為にすぎず、本件特例が適用となるか否かの判断には何ら影響を与え得ないというべきである。

3 本多地所が日本橋の建物及び神田の建物二を賃貸していることをもって本件各土地が事業用宅地に当たると評価することができるか否か

(一) 本件相続開始当時における課税実務上、当該土地が被相続人の同族会社の事業の用に供されている場合においても、被相続人の事業の用に供されていたものとして取り扱われていた(措置法通達六九の三―六)。

(二) そこで、本件被相続人の同族会社である本多地所が日本橋の建物及び神田の建物二を賃貸していることをもって、本件各土地が本件特例にいう事業用宅地に当たると評価することができるか否かが問題となるが、以下に述べるとおり右の点は否定的に解するべきである。

すなわち、本件被相続人が本件各土地を取得する際、本件各土地の完全な所有権を阻害するものは、すべて所有権移転登記申請までに消滅させることが売主の義務とされ、右義務が不履行の場合には、買主は売買契約を解除することができるとされていたばかりでなく、本多地所は、本件各建物を取得するときから、それまで同建物に付着していた賃借権を消滅させ、すべての賃借人を退去させること等を予定しており、本多地所が本件各建物を取得したのも、同建物のテナントの明渡し完了、取壊しまでの期間を考えていたのであって、本件各建物を取得した時点からその取壊しを予定していた本多地所の本件各建物の貸付けに事業性が全く認められないことは明白である。

したがって、本多地所の行う本件各建物の貸付けは、事業としてこれを行う意思を欠くものであり、また、その実体も全く備えていなかったというべきである。

第三当裁判所の判断

一  本件特例にいう「事業」の意義について

本件特例にいう「事業」の意義について直接定めた規定は存在しないが、所得税法上の「事業」と別異に解すべき理由はないから、租税法の解釈の統一性、法的安定の確保の要請から、所得税法上の「事業」と同じ意義に解すべきである。所得税法上も「事業」の意義について定義した規定はなく、結局、法の趣旨及び社会通念に照らして解するほかはないが、所得税法上の「事業」とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反覆継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務をいうものと解されている(最高裁判所昭和五六年四月二四日第二小法廷判決・民集三五巻三号六七二頁参照)ところであり、本件特例にいう「事業」についても右と同じ意義に解するのが相当である。

二  本件各貸付けは「事業」の要件である営利性、有償性を有するか否かについて

1(一)  本件特例にいう事業用宅地と認められるためには、当該被相続人が行っていた行為が、相続開始の直前における客観的な状況からみて、営利性、有償性を有していたと認められることが必要である。

そして、本件のように、宅地の購入代金を銀行などから借り入れた上、購入に係る当該宅地を他に賃貸する場合においては、地代収入はもちろん、その増額の見込み、権利金等の授受の有無、金額、その維持管理にかかる費用、貸付けをした資産の減価償却費、固定資産税その他の必要経費を総合的に判断して、相当な対価を受領していて現実に利益を上げているか、仮に利益を上げていないとした場合においても、客観的にみて事業として利益を上げることを志向していると認められるか否かといった観点から判断すべきである。その際、不動産賃貸事業の性質上、借入金等が莫大となり、当初は利益が生じないことは往々にしてあるが、このような場合に相当な対価を受領していないとしてすべて営利性を欠くと断ずるのは本件特例の趣旨(後記三参照)及び社会通念に照らし妥当ではないというべきである。すなわち、単に一時点の収支のみをとらえるのではなく、それが客観的にみて事業として将来において利益を上げることを志向していると認められるか否かといった点を含めて判断しなければならないというべきである。

(二)  原告は、営利性とは、営利を目的とすることをもって足り、現実には利益が発生していることや相当な対価を受領していることまで必要ではない旨主張する。確かに相続開始の直前の一時点のみをとらえて、現実に利益が発生していない場合であっても、営利性が認められることがあるのは右(一)で説示したとおりであるが、客観的にみておよそ事業として利益を上げることを志向していると認められないような場合には、社会通念上「事業」の要件である営利性を有するものとはいえないというべきであり、原告の右主張が、かかる場合においても営利性を認めるべきであるとする趣旨のものであるならば、それは失当といわざるを得ない。

2  前記第二の二4記載の事実に証拠(甲一、八ないし一三、一五、一六、一七の1ないし3、一八、一九、二一、二五の1、2、二六の1、2、三一の1、2、四〇、五一、五八、六一、乙四ないし六、一二、一三の1、2、一四の1、2、証人信悟及び原告本人(ただし、証人信悟及び原告本人については、後記採用しない部分を除く。))及び弁論の全趣旨を併せれば、以下の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(一) 本件各土地が取得されるまでの経緯

(1) 本件被相続人は、昭和六四年一月四日に、糖尿病をわずらっていたことから、以前にも治療を受けたことのある墨田中央病院へ入院し、平成元年四月二八日には、同病院から星病院に転院しているところ、その間の同年一月一三日に、その孫である原告を養子とする縁組の届出をし、さらに平成元年四月五日には、入院中の墨田中央病院の病室で、<1>全財産を原告に相続させる(遺言公正証書の第一)、<2>遺言執行者に富永敏丈弁護士を指定する(同第四)旨の遺言公正証書を作成した。

また、平成元年一月三〇日には、原告の実父である平蔵を代表取締役とする本多地所が、さらに、翌月の二月一四日には、原告の夫信悟を代表取締役とするホンダ開発がそれぞれ設立された。

なお、本多地所は、本件被相続人と平蔵とが五〇パーセントずつ出資して設立されたものであり、本件被相続人の同族会社であった。

(2) 信悟は、平成元年一一月中旬に、三井銀行新宿支店を通じて面識のあった税理士の岡部に本件被相続人に係る相続税の対策を相談し、相続税対策として本件被相続人名義で金員を借り入れ、土地を購入することとし、購入資金の調達を岡部に依頼した。岡部は、平成元年一二月初旬に、三井銀行新宿支店の紹介で三銀モーゲージを訪問し、続けて同月一四日ころ再度三銀モーゲージを訪問して、本件被相続人名義で借入れの申込みを行った。

その際、岡部は、対応に出た三銀モーゲージの門脇康男社長、営業担当の村上らに対し、「向島の大地主で徳川家康の家臣本多平八郎の子孫、本多平左衛門が相続税対策として年内にも不動産を購入したいということである。候補地が都心に三物件あるので、諸費用及び金利込みで一〇〇億円融資願いたい。担保は新規購入物件と自宅周辺の既存物件。本件は、新規購入交渉の都合上、一両日中に、採り上げ得るか否か返答願いたい。」との申出をするとともに、持参した相続税対策のシュミレーションを示しながらその節税効果等についての概略説明を行った。

(3) 三銀モーゲージは、右借入の申込みに対し社内で検討した結果、本件被相続人が九二歳と高齢であることから、借入名義人本人の借入意思の確認ができ、かつ、原告、平蔵及び本多地所の保証を取ることを条件に右借入れの申込みに応じることとし、その旨を三井銀行を通じて岡部に伝えた。

(4) 平成元年一二月二八日に、債権者三銀モーゲージ、債務者本件被相続人、借入金額五〇億円、弁済期限を平成五年三月二〇日、利率六・五パーセント、管理保証料一・〇パーセントとする第一回目の金銭消費貸借契約、抵当権設定契約及び抵当証券発行に関する契約が締結され、三井銀行新宿支店で<1>右五〇億円の融資実行手続と、<2>売主をクリエイトビューロー、買主を本件被相続人として日本橋の土地を二四億九四八三万四五〇〇円で売買する旨の契約の締結及び売買代金の授受が行われた。

また、右売買契約に併せて、売主をクリエイトビューロー、買主を本多地所として日本橋の建物を五一六万五五〇〇円で売買する旨の契約も締結され、その購入代金も本件被相続人の右五〇億円の借入金から支払われた。

なお、本件被相続人が立替払した本多地所の日本橋の建物の購入代金相当額は、同日、本多地所から本件被相続人へ返済された。

(5) 平成二年二月二二日に、債権者三銀モーゲージ、債務者本件被相続人、借入金額五〇億円、弁済期限を平成五年六月二〇日、利率七・五パーセント、管理保証料一・〇パーセントとする第二回目の金銭消費貸借契約、抵当権設定契約及び抵当証券発行に関する契約が締結され、三井銀行新宿支店で<1>右五〇億円の融資実行手続と、<2>売主を第一ビルド、買主を本件被相続人として神田の各土地を三〇億九二五四万八九〇〇円で売買する旨の契約の締結及び売買代金の授受が行われた。

また、右売買契約に併せて、売主を第一ビルド、買主を本多地所とする神田の各建物を七四五万一一〇〇円で売買する旨の契約も締結され、その購入代金も、本件被相続人名義の右五〇億円の借入金から支払われた。

なお、本件被相続人が立替払した本多地所の右神田の各建物の購入代金相当額は、日本橋の建物の場合と同様に、同日、本多地所から本件被相続人へ返済された。

(6) 本件被相続人が、本件借入金を原資として行った日本橋の物件及び神田の物件の購入代金の支払等の明細は次のとおりである。

ア 日本橋の土地の購入代金 二四億九四八三万四五〇〇円

イ 日本橋の建物の購入代金 五一六万五五〇〇円

ウ 三銀モーゲージへの借入手数料 五一九〇万円

エ 日本橋の物件の登記費用 三二〇〇万円

オ 日本橋の土地の売買仲介手数料 三七五〇万円

カ 神田の各土地の購入代金 三〇億九二五四万八九〇〇円

キ 神田の各建物の購入代金 七四五万一一〇〇円

ク 神田の物件の登記費用 二八〇〇万円

ケ 三銀モーゲージへの借入手数料 五一九〇万円

コ 神田の各土地の売買仲介手数料 四六三〇万円

サ 三銀モーゲージへの借入金利息の支払い 八五二七万三九七二円

シ 抵当証券の購入代金 一三億三九〇〇万円

ス 定期預金 二二億円

セ 本多地所への貸付金 一五五五万〇九七八円

ソ ホンダ開発への貸付金 四億三〇〇〇万円

(二) 日本橋の物件の利用状況等

(1) 日本橋の物件の所有者であったクリエイトビューローは、日本橋の物件を平成元年一二月二八日に本件被相続人らに売却する以前から、日本橋の建物が老朽化していて危険であることから、後記(2)で述べるとおり、同建物の二階部分ないし四階部分の賃借人に対し、明渡しを要求していた。なお、一階部分は空室であった。

(2)ア 同建物の二階部分の七二・〇九平方メートルのうち共有部分を除いた約六六平方メートルは、伊藤満寿雄が元所有者である富永徳生ほか三名から賃借していたところ、右伊藤は、共有者の田村裕美から、平成元年一月一〇日付けで右二階部分の明渡し請求を受けたが、平成元年一月一九日付けでこれを拒絶し、賃借料の供託を行いながら右二階部分の使用を継続し、本件相続開始時においても同部分を使用していた。

イ 同建物の三階部分七二・〇九平方メートルのうち共有部分を除いた約六六平方メートル及び四階部分のうち約一二平方メートルは、有限会社ひばり治療院が富永徳生ほか三名から賃借していたところ、同会社は、共有者の田村裕美から平成元年一月一〇日付けで、富永らより右建物を取得したクリエートビューローから平成元年九月一日付けでそれぞれ明渡し請求を受けたが、これを共に拒絶し、右三階、四階部分の使用を継続し、本件相続開始時においても同部分を使用していた。

ウ 同建物の四階部分のうち一三・二二平方メートルは、田代昭が富永徳生ほか三名から賃借していたところ、右田代は、共有者の田村裕美から平成元年一月一〇日付けで、富永らより右建物を取得したクリエートビューローから平成元年八月三一日付けでそれぞれ明渡し請求を受けたが、これを共に拒絶し、右四階部分の使用を継続し、相続開始時においても同部分を使用していた。

エ 同建物の四階部分のうち二三・一四平方メートルは、東興産業貿易株式会社が富永徳生ほか三名から賃借していたところ、同会社は、共有者の田村裕美から平成元年一月一〇日付けで右四階部分の明渡し請求を受けたが、同月三〇日付けでこれを拒絶し、右四階部分の使用を継続し、本件相続開始時においても同部分を使用していた。

オ 同建物の四階部分のうち一三・二二平方メートルは、株式会社佐和産業が富永徳生ほか三名から賃借していたところ、同会社は、共有者の田村裕美から平成元年一月一〇日付けで右四階部分の明渡し請求を受けたが、同月三〇日付けでこれを拒絶し、右四階部分の使用を継続し、本件相続開始時においても同部分を使用していた。

(3) 平成元年一二月二八日にクリエイトビューローと本件被相続人との間で締結された日本橋の建物の売買契約及び日本橋の土地の売買契約の双方において、売主(クリエイトビューロー)は右各契約締結時から八か月以内にその費用と責任において、日本橋の建物の二階ないし四階部分の全賃借人を退去させる旨の特約(以下「本件特約」という。)がなされており、その期間内に全賃借人を退去させられない場合は、売主は買主に対し違約金として一億五〇〇〇万円を支払う旨の合意があった。しかも、本件特約違反が日本橋の建物の売買契約の解除原因となることはもちろん、日本橋の土地の売買契約の解除原因となることまで、その契約書に明記されていた(第九条)。このように、日本橋の建物は、空き家として本多地所に対し引き渡されるものとされていた。

なお、右各契約書上、日本橋の物件は、売主において、その契約日と同日である平成元年一二月二八日までに、地上権、抵当権、質権、先取特権等権利を阻害するものをすべて抹消し、買主に引き渡した上、所有権移転登記申請をしなければならないこととされていた。

(4) 本件被相続人は、日本橋の土地を購入したその日である平成元年一二月二八日に、同土地を月額賃料三〇〇万円で本多地所に対し貸し付けた。

この賃貸借契約においては、賃貸期間は同日から平成三一年一二月二七日までの三〇年間とされ、日本橋の土地を当時から存在していた日本橋の建物そのものの敷地としてのみ使用し、その他の目的には使用しないこと、賃借人は、当該建物の譲渡や取り壊しに当たっては、賃貸人の書面による承諾を受けなければならないこと、賃借人は、賃貸借契約が終了し又は途中解約された場合には、無償で賃貸人に対し同土地を返還することがそれぞれ合意されていたが、月々の地代以外の金銭の支払に関する合意は一切なかった。

(5) 本多地所は、平成二年二月ころ、クリエイトビューローとの間で、右明渡し交渉を行わせ、明渡しまでの間日本橋の建物を管理させるという趣旨で、各賃借人の家賃その他電気、水道料金の集金を含めた同建物の管理を委託する旨の業務委託契約を締結した。

さらに、同建物の二階ないし四階部分の明渡し交渉の進展具合が思わしくなかったことから、本多地所は、右業務委託契約の趣旨を実効あらしめるため、平成二年四月二〇日付けの賃貸借契約により、同建物の一階部分をクリエイトビューローに対し、月額三〇万円、期間二年間の約定で賃貸した。しかし、明渡し交渉が進展しないため、その後も二年間ごとに賃貸借契約を更新している。

(三) 神田の物件の利用状況等

(1) 神田の各建物の従前の所有者である白石美千代は、同建物で「梅の井」という飲食店を営業していたが、本多地所が同建物を取得した平成二年二月当時、同人は既に右飲食店を廃業しており、同建物は既に空き家の状態であった。

(2) 本件被相続人は、神田の各土地を購入したその日である平成二年二月二二日に、右各土地を月額賃料三九〇万円で本多地所に対し貸し付けた。

この賃貸借契約においては、賃貸期間は同日から平成三二年二月二一日までの三〇年間とされ、右各土地を当時から存在していた神田の建物二そのものの敷地としてのみ使用し、その他の目的には使用しないこと、賃借人は、当該建物の譲渡や取り壊しに当たっては、賃貸人の書面による承諾を受けなければならないこと、賃借人は、賃貸借契約が終了し又は途中解約された場合には、無償で賃貸人に対し右各土地を返還することがそれぞれ合意されていたが、月々の地代以外の金銭の支払に関する合意は一切なかった。

(3) 本多地所は、平成二年二月二二日付けで、神田の建物二をホンダ開発に対し賃貸する旨の契約を締結した。そして、同建物は、本件相続開始時においては、ホンダ開発が使用していた。

(4) クリエイトビューローは、平成二年二月二二日、本多地所との間で、萩原ビル株式会社が所有していた神田の土地三及び神田の建物三並びに神田の土地四について、代金を一二億〇八九六万円、引渡日を平成三年八月三一日とし、同日までにクリエイトビューローが神田の建物三の入居者をすべて退去させて同建物を本多地所に対し引渡し可能となった場合に、その効力が生じる旨の停止条件の付いた売買契約を締結した(以下「本件停止条件付売買契約」という。)。

(5) 本件被相続人、本多地所及びクリエイトビューローは、平成二年二月二二日、平成三年八月末日までにクリエイトビューローが神田の土地三及び四、神田の建物三を取得し、本件被相続人及び本多地所に対し所有権移転登記手続をすることができず、かつ、同建物の入居者の立退きを完了してその引渡しを行うことができないときは、クリエイトビューローが神田の物件をその購入代金に年七・五パーセントの利息を付した代金で買い取る旨の売買予約契約を締結することを約諾する旨の覚書を締結した。ただし、神田の建物一は当時既に老朽化しており、右覚書においては、神田の建物一が滅失しているときは、本件被相続人が予約完結権を行使しても、同建物について売買契約が成立しないことを確認する旨がわざわざ特記された。

(6) 神田の土地三及び神田の建物三は、本件停止条件付売買契約当時、萩原ビル株式会社が所有しており、現在も同社が所有している。

(四) 本件借入金の借替え

(1) 平成二年三月ないし四月ころに、信悟から三銀モーゲージに、本件借入金のうち一〇億円ほどを信悟の海外不動産事業の投資に流用したい旨の申入れがされた。

これに対し、三銀モーゲージは、<1>同社は本件被相続人に対して一〇〇億円を融資したのであって、信悟に対する融資ではないこと、<2>右申出は当初の融資目的とは使途が異なることに加え、本多家が当初購入を予定していた三物件のうち一物件は未購入であること、<3>海外不動産への投資では貸付債権の保全が図れないこと及び<4>そもそも海外不動産では抵当証券発行ができないことから右申出を断ったが、再度、信悟から強い要請があり、結局、本件借入金の保証人である原告の了解を得た上で信悟の右申出を了承し、本件借入金から八億五〇〇〇万円を信悟の事業に流用することに応じた。

(2) 信悟は、本件借入金の流用に関して右(1)記載のとおり三銀モーゲージとの間でトラブルがあったことなどから、本件相続開始の後である平成二年八月二〇日、本件借入金の期日前返済を行う旨を原告を代理して三銀モーゲージに申し入れ、同社はこれを了承した。

そこで原告は、かねてから融資の相談を進めていた東海銀行に対し、平成二年九月一二日に、返済期限を平成五年九月三〇日とする一二〇億円の借入れの申込みを行い、同月中に同行から一二〇億円の貸付けを受けた。

原告は、同月二六日に、右借入金のうち八四億五九三四万五九三八円と前記(一)(6)のシ記載の抵当証券の売却代金一三億七八五一万三七三五円及び同ス記載の定期預金の解約払戻金一三億五〇二三万二五〇八円との合計一一一億八八〇九万二一八一円を原資として本件借入金一〇四億四八五二万七三九三円の返済を行った。

また、原告は、右借入金を原資として同月二〇日に、次に掲げる第一勧業銀行の借入金合計一五億四八七〇万円も返済した。

ア 本件被相続人の借入金一億七四二〇万円

イ 原告の借入金三億二四〇〇万円

ウ 平蔵の借入金五〇五〇万円

エ ホンダ開発の借入金一〇億円

3(一)  前記2(一)によれば、日本橋の土地の購入代金は取得の対価の額と取得に係る仲介手数料の額を合計して二五億三二三三万四五〇〇円となるところ、右購入代金の原資となった平成元年一二月二八日付けの借入金五〇億円に対する借入利息が年七・五パーセント(利率六・五パーセント、管理保証料一・〇パーセント)であるから、同土地の取得価額(土地の取得の対価の額及び取得に係る仲介手数料の額の合計額)に対応する利息等の金額は、半年間で

(取得価額) (利率) (期間)

二五億三二三三万四五〇〇円×〇・〇七五〇×二分の一

=九四九六万二五四四円(一円未満の端数は四捨五入)

となり、一年間で一億八九九二万五〇八八円となる。

同様に、神田の各土地の購入代金は土地の取得の対価の額と取得に係る仲介手数料の額を合計して三一億三八八四万八九〇〇円となるところ。右購入代金の原資となった平成二年二月二二日付けの借入金五〇億円に対する借入利息が年八・五パーセント(利率七・五パーセント、管理保証料一・〇パーセント)であるから、同土地の取得価額(土地の取得の対価の額及び取得に係る仲介手数料の額の合計額)に対応する利息の金額は、半年間で

(取得価額) (利率) (期間)

三一億三八八四万八九〇〇円×〇・〇八五〇×二分の一

=一億三三四〇万一〇七八円(一円未満の端数は四捨五入)

となり、一年間で二億六六八〇万二一五六円となる。

したがって、本件各土地の取得価額に対応する利息等の金額は、一年間で合計四億五六七二万七二四四円となる。

なお、取得に係る仲介手数料の額を考慮せず、純粋に土地の取得価額だけで計算しても、日本橋の土地の購入代金は二四億九四八三万四五〇〇円神田の各土地の購入代金は三〇億九二五四万八九〇〇円であるから、右と同様に計算して、日本橋の土地に関する利息等が年一億八七一一万二五八七円、神田の土地に関する利息等が年二億六二八六万六六五六円となり、合計で年四億四九九七万九二四三円となる。

(二)  他方、日本橋の土地の賃料は月額三〇〇万円、神田の各土地の賃料は月額三九〇万円であるから、本件各土地の賃貸料収入は、合計で年額八二八〇万円である。

そして、本件各貸付けにおいて、月々の賃料以外の金銭の支払に関する定めがないことは前記2(二)(4)及び同(三)(2)で認定したとおりであるから、結局、本件被相続人が本件各貸付けによって得られる収入は、年間八二八〇万円にすぎなかったことが認められる。

(三)  そうすると、本件各土地に関する収支は、一年間当たり右(二)記載の八二八〇万円から前記(一)記載の四億五六七二万七二四四円を引いた三億七三九二万七二四四円の支出超過となり、取得に係る仲介手数料の額を考慮せず、純粋に土地の取得価格だけで計算しても、毎年三億六七一七万九二四三円の支出超過となるところ、少なくとも当初三年間利率の見直しがされないことは当事者間に争いがないから、地代が増額されない限り、この状態が少なくとも三年間は継続することが確実である。

そして、右地代の額が急激に上昇する見込みが客観的に存したことをうかがわせる事情を認めるに足りる証拠はないから、本件各貸付けについては、将来にわたって毎年三億六七〇〇万円ないし三億七四〇〇万円程度の支出超過が継続し、利益を生じることはまず見込めない状況にあったものと認められる。

本件各貸付けのこのような収支の状況等に照らせば、本件被相続人において、客観的にみて事業として将来において利益を上げることを志向して本件各貸付けを行っていたものとは認められないから、本件各貸付けが営利性、有償性を有するものと評価することは到底できない。

4(一)  原告は、不動産事業は、不動産の取得に係る費用が莫大であり、通常、事業を開始した当初は支出超過となるが、長期的にみれば収支が合うように計画されるものであり、また本件各貸付けの借主である本多地所は本件被相続人の同族会社であって地代を増額することが容易であるから、将来地代が増額される現実的な見込みもあったとして、不動産を取得した直後の収支にとらわれず、長期的にその営利性を判断すべきである旨主張する。

確かに、将来における賃料の上昇が客観的にみて相当程度の蓋然性をもって見込めると認められる場合には、将来の賃料の上昇等をも考慮に入れて、当該各貸付けが営利性、有償性を有するかどうかを判断すべきものといえる。

しかしながら、本件相続開始の直前における本件各建物の利用状況等は前記2(二)及び(三)で認定したとおりであるし、本多地所が本件被相続人の同族会社であるとはいっても、前記2(一)(1)で認定したとおり、平成元年一月三〇日に設立されたばかりの会社であり、その経営の純資産や実績等は明らかではない上、日本橋の土地の面積が七九・六八平方メートル、神田の各土地の面積が合計九九・九八平方メートルときわめて狭いこと、平成元年八月三〇日の時点で既に日本橋の建物は全体的に老朽化が進行していたことなどを考慮すると、長期的にみても、本件各土地からの賃料が大幅に増額する見込みは客観的にはなかったものといわざるを得ない。

したがって、原告の右主張は理由がない。

(二)  原告は、本件相続開始の直前において、本件被相続人は、本件各土地上に新たにオフィスビルを建築した場合に一坪当たり一〇万円の賃料が得られるものとして収支計算をしていたものであり、その収支見積もりは妥当なものであった旨主張し、近隣の賃料のデータ(甲二〇の1ないし3)や日本橋のツムラビルの賃料が一坪当たり一一万円であること(甲五三)をその根拠として提示するが、右賃料データはいずれも平成四年度ないし同六年度のものであって、本件相続開始の直前とは時期を異にしている上、以下に述べるとおり、原告の主張はその前提において採用することができず、失当である。

すなわち、本件特例の適用があるかどうかは、相続開始の直前の客観的な状況を基に判断すべきであるところ、既に認定したとおり、日本橋の建物は、二階ないし四階部分の賃借人の立退きをクリエイトビューローに委託したものの、思うようにはかどらず、かえって一階部分を月額三〇万円で同社に賃貸しており、神田の建物一は老朽化して取り壊しが予定されていたし、神田の建物二は本多地所が購入した当時空き家となっており、その後ホンダ開発に賃貸されているにすぎない状況であったのであって、いずれも新築オフィスビルではなく、また、現に一坪当たり一〇万円の賃料を得て賃貸していたものでもない。しかも、原告が主張する本件ビル新築計画については、後記四で述べるとおり、未だ構想段階にとどまっていたにすぎないから、本件各貸付けが「事業」の要件である営利性、有償性を有するかどうかを判断するに当たってこれを考慮すべきではなく、結局、原告の主張はその前提を欠くものといわざるを得ない。

5  したがって、本件各貸付けは、その余の点について判断するまでもなく、本件特例にいう「事業」に当たらず、本件各土地は、本件特例にいう事業用宅地には当たらないものというべきである。

三  本件特例にいう事業用宅地に該当するかどうかの認定に当たって、本件被相続人が墨田区八広地区において不動産賃貸事業を行っていたこと等を考慮すべきか否かについて

原告は、本件各貸付けが本件特例にいう「事業」に該当するか否かは、墨田区八広地区その他の物件の貸付け等を含め、本件被相続人が行っていた事業の全体をみて判断すべきであり、本件各貸付けが本件被相続人が行ってきた不動産賃貸業の一環をなす以上、その事業性は認められるべきである旨主張する。

そこで、検討するに、本件特例は、相続開始の直前において、被相続人等の事業の用又は居住の用に供されていた宅地等は、相続人等の生活基盤の維持のために必要不可欠のものであること、特に事業用宅地については、雇人、取引先等事業者以外の多くの者の社会的基盤にもなり、事業を継続させる必要性が高いことなどから、その処分について相当の制約を受けるであろうことにかんがみ、必要最低限度の部分について、相続税の課税価格の計算上減額を認めたものであると解される。右のような本件特例の趣旨及び「当該相続の開始の直前において・・・事実の用若しくは居住の用に供されていた宅地等」と規定している本件特例の文言に照らし、さらには、右規定に定める要件の有無は課税の公平の観点から一義的、明確な基準をもって判断されるべきであると考えられることを考慮すれば、本件特例にいう事業用宅地に該当するか否かは、相続の開始の直前において、当該宅地等について事業の用に供されていたか否かという観点から判断されるべきであり、当該宅地以外の宅地が被相続人の事業の用に供されていることは、その判断の参考となることはあっても、あくまで参考にとどまるのであり、そのことをもって当該宅地が事業用宅地に当たるものとすることはできないというべきである。すなわち、当該宅地自体が被相続人の事業の用に直接供されている場合や、当該宅地が従業員の宿舎として利用されているなど、その利用状況が、被相続人の事業の用に客観的に役立っていると認められる場合には、当該宅地は、被相続人の事業の用に供されていたと評価できるが、被相続人が不動産賃貸業を営んでおり、当該宅地も賃貸されているというだけでは、被相続人の事業の用に供されているものとは直ちに評価できないものである。本件においては、本件各土地に関して本件特例の適用の可否が問題となっているのであるから、あくまで、本件各土地自体について「被相続人の事業の用に供されていた」ことが必要であり、本件被相続人が墨田区八広地区等で不動産賃貸業を営んでいるからといって、本件各土地が直ちに事業用宅地に当たるということにはならないというべきである。

しかして、前記第二の二4(二)記載の事実及び弁論の全趣旨によれば、本件相続の翌年である平成三年分の原告の墨田区八広地区の不動産事業及び本件各貸付けについては、別紙2記載のとおり、その収入金額が約三億五九四六万円であることが認められ、本件相続開始の直前における収入状況も同様であったものと推認されるが、他方、前記二3(一)に記載したとおり、本件借入れのうち、本件各土地に係る部分の利息等の支払だけで年間四億四九九七万九二四三円に上ることが認められるのであり、本件被相続人が従前から行っていた不動産賃貸事業による全収入に本件各土地の地代を含めても、本件各土地の購入に係る借入金の利息等にも満たないのである。そうすると、本件各土地の本多地所に対する本件各貸付けが、本件被相続人の不動産事業に客観的にみて役立っているものとか、従前本件被相続人が墨田区八広地区で行っていた不動産賃貸事業の一環をなすものとかいうことは到底できないから、本件各貸付けが、本件被相続人の事業の用に供されていたものと評価することはできない。

四  本件被相続人が本件相続開始直前において、本件ビル新築計画を有していたかどうか、また、右事実が認められる場合、本件特例にいう事業用宅地に該当するかどうかの認定に当たって、右事実を考慮して判断すべきか否かについて

1  原告は、本件特例が適用になるか否かの判断基準時は、当該相続開始の直前であるとしながら、その判断の基礎とすべき事実は、相続開始の直前にまでに現に生起している事実に加え、その時までに、その原因となる事実が存在したところの将来生起する事実を含むとし、本件被相続人が本件ビル新築計画を有していたことを「事業性」の有無の判断において考慮すべきであるとした上、本件相続開始の直前において、本件被相続人は、本件各建物を取り壊し、オフィスビルを新築する計画(本件ビル新築計画)を有しており、かかる計画が実現されれば、一坪当たり一〇万円の賃料収入を得られる上、年七パーセントの賃料の上昇が見込まれていたし、本多地所は本件被相続人の同族会社であって、地代の値上げも容易であるから、本件各貸付けは収支計算の結果約六年目、固定資産税等の上昇割合などによっても二〇年程度経過すれば利益が計上される見込みであり、したがって、本件各貸付けは営利性、継続性を有するものである旨主張し、本件ビル新築計画の具体的内容を示す証拠として甲一四の1ないし4、四八を挙げ、証人信悟及び原告本人はこれに沿う供述をし、陳述書(甲五八、六一)にも同趣旨の記載をしている。

しかしながら、前記三記載のとおり、本件特例にいう事業用宅地に該当するか否かは、相続の開始の直前において、当該宅地等について事業の用に供されていたか否かという観点から判断されるべきであり、被相続人が右時点において単に事業の用に供する計画を構想していたにすぎず、当該宅地等が客観的、外形的に当該事業の用に供されていたとは認められないような場合は、これに当たらないものと解すべきである。

2  そこで、本件ビル新築計画が存在したかどうか、それが存在したとして本件相続開始直前においてその計画がどの段階にあり、また、どのような内容のものであったかについて検討する。

(一) まず、本件相続開始の直前において、日本橋の建物の建替えに関しては、イメージ・デザインの段階にすぎなかったこと、神田の建物一及び二の建替えに関しては、隣地である神田の土地三及び四を取得するため交渉中であり、そこまでも至っていなかったことは、原告自身認めるところである。

したがって、イメージ・デザインの段階にも至っておらず、設計図面すらできていない神田の各建物の建替えに関して、新ビルの建築費が予定されていることは考えにくいから、神田の土地三及び四の購入を前提として、新たなビルの建築費として約二億一八三五万六三〇〇円が予定されていた旨の原告の主張は、それ自体納得し難いものであるし、これを裏付ける客観的証拠も存在しない。

(二) また、本件ビル新築計画は誰が事業主体として行うこととなっていたのか、あるいは本件相続開始の直前においては未だ決まっていなかったのかについて定かではない。

すなわち、甲一によれば、原告は、本件訴訟に先立つ審査請求の段階において、原告が本件ビル新築計画の事業主体として貸しビル事業を営む予定であった旨主張していることが認められるところ、本件訴訟においては、第九回口頭弁論期日において、本多地所が企画・立案するものであった旨主張したのに対し、第一四回口頭弁論期日においては、ビル建替え計画の主体は、本件相続開始直前においては未だ確定していなかった旨主張しており、このように主張が変遷することについて、合理的な理由は見出せない。証人信悟は、本件ビル新築計画の主体は本多地所である旨供述しているが、同人は原告の夫であり、本件の重要関係者であること、原告の主張自体が右のように変遷していることに照らすと、たやすく信用することはできない。

そうすると、本件相続開始の直前において、本件ビル新築計画の事業主体は、未だ確定されていなかったものと推認するのが相当である。

(三)(1) 原告は、日本橋の建物に関して、本件相続開始の直前において、新築するビルの設計図が既に作られていた旨主張し、作成年月日が平成元年五月と記載されているビルの設計図(甲一四の1ないし4、四八)を証拠として提出した上、第一二回口頭弁論期日において、右設計図の作成者であるT・S企画設計による作成当初には、甲四八のように設計図だけであったが、これに後から案内図を添付して合成する際に、B四サイズ(これはA三の誤りであると思われる。)の一枚の紙(甲一四の4)に収まるように、甲四八の上の部分を切取ってずらして貼り付けたものである旨主張している。

(2) しかしながら、当初、原告は、第五回口頭弁論期日において、当時(平成元年五月を指すものと理解される。)発注して作られていた設計図として甲一四の1ないし4を提出しているのであり、甲一四の4のみ後に作成されたものである旨の主張はしていない。原告が、第一二回口頭弁論期日において、右のように主張を変えたこと自体不自然といわざるを得ないが、さらに、原告が右のように主張を変えるに至ったのは、被告が第一〇回口頭弁論期日において、甲一四の4に掲載された案内図には「太陽神戸三井銀行」の記載があるところ、同銀行は太陽神戸銀行と三井銀行が合併したものであり、「太陽神戸三井銀行」の名称は、平成二年四月一日以降使われるようになったのであるから、甲一四の1ないし4が平成元年五月に作成されたということはあり得ず、後日、日付けを遡らせて作成されたものである旨主張したことを契機とするものであることが認められ、かかる事情に照らせば、原告の主張は、それ自体信用のおけないものといわざるを得ず、実際にも原告の右主張を裏付ける客観的な証拠は存在しない。

むしろ、甲一四の2ないし4と甲四八を比べると、<1>前者は、各線が細く均一であるのに、後者は、線が太く、不均一であって、後者が甲一四の1ないし3と一緒にT・S企画設計から送付されてきたものとは考えられないこと、<2>甲一四の4及び甲四八のいずれにも右下の図面名の欄に「案内図」の表示があるのであって、案内図が欠けていたはずはないこと、<3>甲一四の2ないし4は、いずれも下方の線やその左端付近にある「附記」の文字が揃っているのに、甲四八の下方の線は、左の方が大きく切れていて、「附記」の文字もないこと、<4>甲一四の2ないし4はいずれもA三の用紙に、その記載どおり一〇〇分の一の縮尺で描かれているのに対し、甲四八のみがこれと異なっているが、これについて合理的な理由が見出せないことなどからすると、甲一四の4は甲一四の2及び3と同一機会に作成された一連の図面であると認められるのに対し、甲四八は、甲一四の4を基に後に作成されたものと推認するのが相当である。

(3) 甲一四の4の案内図には、「太陽神戸三井銀行」との記載が認められるところ、同銀行は、太陽神戸銀行と三井銀行が合併してできたものであることは公知の事実であり、乙一一によれば、「太陽神戸三井銀行」という名称が使用されるようになったのは、平成二年四月一日以降であることが認められる。

したがって、甲一四の4が作成されたのは、平成二年四月一日以降であることが認められる。

(4) 前記(2)及び(3)によれば、日本橋の建物の建替えに係る設計図面である甲一四の2ないし4は、いずれも平成二年四月一日以降に作成されたものであると認められ、本件相続開始の直前における本件ビル新築計画の内容を示すものとは認められない。

なお、原告は、甲一四の1ないし4は、クリエイトビューローからもらったものであり、日本橋の建物の借家人が立ち退いた後、この計画案を参考にして、ビルを新築する計画を建てる予定であった旨供述する。しかしながら、甲一四の1ないし4が本件相続開始後に作成されたものであると推認されることは右に説示したとおりであり、原告の右供述が本件相続開始前のことをいうのであれば、これを信用することはできない。

そして、本件相続開始の直前において、他に、日本橋の建物の建替えに係る設計図面が作成されていたことをうかがわせる証拠は存在しないから、本件相続開始の直前において、本件ビル新築計画のうち日本橋の建物に関する部分について、設計図面が作成されていたなど、右計画が具体的に確定し進捗していたものとは認められない。

(四) 本件ビル新築計画のうち、神田の各建物に関する部分については、前記前提となる事実(第二の二4記載のとおり)に証拠(甲八、一〇、一二、一七の1ないし3、一八及び一九)及び弁論の全趣旨を併せれば、以下の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(1) クリエイトビューローは、平成二年二月二二日、本多地所との間で、萩原ビル株式会社が所有していた神田の土地三及び神田の建物三並びに神田の土地四について、代金を一二億〇八九六万円、引渡し日を平成三年八月三一日とし、同日までにクリエイトビューローが神田の建物三の入居者をすべて退去させて同建物を本多地所に対し引渡し可能となった場合に、その効力が生じる旨の停止条件の付いた本件停止条件付売買契約を締結した。

(2) 本件被相続人、本多地所及びクリエイトビューローは、平成二年二月二二日、平成三年八月末日までにクリエイトビューローが神田の土地三、四及び神田の建物三を取得し、本件被相続人及び本多地所に対し所有権移転登記手続をすることができず、かつ、同建物の入居者の立退きを完了してその引渡しを行うことができないときは、クリエイトビューローが神田の物件をその購入代金に年七・五パーセントの利息を付した代金で買い取る旨、売買予約契約を締結することを約諾する旨の覚書を締結した。ただし、神田の建物一は当時既に老朽化しており、右覚書においては、神田の建物一が滅失しているときは、本件被相続人が予約完結権を行使しても、同建物について売買契約が成立しないことを確認する旨がわざわざ特記された。

(3) 神田の土地三及び神田の建物三は、本件停止条件付売買契約当時、萩原ビル株式会社が所有しており、現在も同社が所有している。

また、本件相続開始の直前において、神田の建物二を取り壊し、神田の各土地等の上に新しいビルを建築するための設計図面等が既に発注され、あるいは完成されていたという事実はもちろん、新しいビルの階数・デザインの概要はいかなるものであるか、設計・見積もりをどの業者に依頼するかといったことについてさえ、具体的に決まっていたことをうかがわせる証拠は存在しない。

右認定によれば、本件相続開始の直前において、本件被相続人らが、神田の物件について、神田の土地三、四及び神田の建物三を取得した上で、ビルを新築する構想を抱いていたかどうかはともかく、少なくともビルの新築が具体的な計画として確定していたとか、その実現に向けて具体的に準備行為が進捗していたとかいう事実はなかったものと認めるほかはない。

(五) 以上に認定したとおり、仮に本件ビル新築計画が存在したものとしても、本件相続開始直前においては、その設計図面すら作成されておらず、また、ホンダ開発はともかく、ビル新築後に入居する賃借人の具体的な目処も立っていなかったものであるから、それは、右時点では未だ構想段階にとどまっており、本件被相続人においてその実現に向けて客観的に準備行為に着手していたものと評価することはできない。

3  したがって、仮に本件ビル新築計画が存在したものとしても、前記1に説示した観点から、本件特例にいう事業用宅地に該当するか否かの判断に当たってその存在を考慮することはできないというべきである。

五  本多地所が日本橋の建物及び神田の建物二を賃貸していることをもって本件各土地が本件特例にいう事業用宅地に該当すると評価することができるか否かについて

1(一)  本件相続開始当時における課税実務上、相続開始の直前において、被相続人の有する宅地でその同族会社の事業の用(その法人により他に貸し付けられていた場合には、その貸付けが個人によって行われていたものとした場合に事業として行われていたと認められるときに限る。)に供されていたものについては、本件特例の適用上、被相続人等の事業用宅地に当たるものとして取り扱われることとなっていた(措置法通達六九の三―六)。

右通達は、被相続人の有する宅地が法人の事業の用に供されている場合において、その法人の発行済株式の総数又は出資の金額の一〇分の五以上のものを被相続人等が所有しているときは、その宅地の利用関係を単なる貸借の関係とみるよりは被相続人が施設を提供しその法人と一体となって事業を行っているとみる方が我が国の中小同族会社の実態に合っていると考えられることに照らし、合理性を有するものである。

(二)  本件相続開始の直前において、本件被相続人の同族会社である本多地所が本件各建物を所有し、本件各土地がその敷地として利用されていたこと、日本橋の建物がクリエイトビューロー及び本件賃借人に、神田の建物二がホンダ開発に対しそれぞれ賃貸されていたことは当事者間に争いがない(日本橋の建物についての本件賃借人との賃貸借契約は、本多地所が同建物を取得したことにより、本件賃借人と従前の所有者との賃貸借契約に関する賃貸人の地位を引き継いだものである。)。したがって、本多地所のクリエイトビューローに対する日本橋の建物の賃貸借、ホンダ開発に対する神田の建物二の賃貸借がそれぞれ本多地所にとって本件特例にいう「事業」に当たると評価できるならば、措置法通達六九の三―六により日本橋の土地及び神田の各土地のうち神田の建物二の敷地部分はそれぞれ本件被相続人の事業の用に供されていたものと評価できることになる。

そこで、右各賃貸借が本多地所にとって「事業」にあたるものと評価できるか否かを検討する。

2  日本橋の建物について

(一) 平成元年一二月二八日にクリエイトビューローと本件被相続人との間で締結された日本橋の建物の売買契約及び日本橋の土地の売買契約の双方において、売主であるクリエイトビューローは右各契約締結時から八か月以内、すなわち平成二年八月二八日までにその費用と責任において、日本橋の建物の二階ないし四階部分の全賃借人を退去させる旨の本件特約があり、その期間内に全賃借人を退去させられない場合は、売主は買主に対し違約金として一億五〇〇〇万円を支払う旨の合意があり、本件特約違反が日本橋の建物の売買契約の解除原因となることはもちろん、日本橋の土地の売買契約の解除原因となることまで、その契約書に明記されていたこと、また、右各契約書上、日本橋の物件は、その契約日と同日である平成元年一二月二八日までに、地上権、抵当権、質権、先取特権等権利を阻害するものをすべて抹消し、買主に引き渡した上、所有権移転登記申請をしなければならないとされていたことは、前記二2(二)で認定したとおりである。

このように、日本橋の建物は、空き家として本件被相続人に対し引渡されるものとされていたのであるから、本件相続開始(平成二年五月九日)の直前において、本多地所は、同建物の賃借人との間の賃貸借契約を営利を目的として長期的に維持することなどは全く考えておらず、単に明渡し交渉が成立するまでの間やむなくその賃貸借契約を継続させていただけであり、本多地所は右賃貸借契約を近く消滅させることを前提に行動していたことは明らかである。

したがって、本多地所が行っていた日本橋の建物の賃貸は、「事業」の要件である継続性を有するものとは認められない。

(二) また、本多地所は、平成二年二月ころ、クリエイトビューローとの間で、日本橋の建物の二階ないし四階部分の明渡し交渉を行わせ、明渡しまでの間同建物を管理させるという趣旨で、各賃借人の家賃その他電気、水道料金の集金を含めた同建物の管理を委託する旨の業務委託契約を締結し、また右業務委託契約の趣旨を実効あらしめるため、平成二年四月二〇日付けの賃貸借契約により、同建物の一階部分をクリエイトビューローに対し、月額賃料三〇万円、期間二年間の約定で賃貸したが、明渡し交渉が進展しないため、その後も二年間ごとに契約を更新していることは、前記二2(二)で認定したとおりである。

これと、右(一)で述べたように、日本橋の物件の売買契約書上、同物件は、その契約日と同日である平成元年一二月二八日までに、地上権、抵当権、質権、先取特権等権利を阻害するものをすべて抹消し、買主に引き渡した上、所有権移転登記申請をしなければならないとされており、日本橋の建物は、空き家として本件被相続人に対し引き渡されるものとされていたことを併せて考えると、クリエイトビューローとの間の右賃貸借契約は、本件相続開始の直前に右契約が締結された時点では、本件賃借人に対する明渡し交渉が無事終了するか、あるいは本件特約違反によって日本橋の物件の売買契約が解除されるまでか、いずれかまでの期間とすることを予定した一時的なものであったと認められる(このことは、原告自身認めるところでもある。)。

そうすると、本多地所のクリエイトビューローに対する右賃貸は、本件特例にいう「事業」の要件である継続性を有するものとは認められない。(なお、同建物の一階部分のみであるとはいえ、本多地所が本件被相続人に対して支払う地代(月額三〇〇万円)に比べ、賃料があまりにも低廉すぎ、客観的にみて営利を目的とするものともいえない。)

(三) 以上によれば、日本橋の建物の賃貸借は、本多地所にとって「事業」に当たるものとは評価できず、本多地所が日本橋の建物を賃貸していることをもって、日本橋の土地が本件特例にいう事業用宅地に当たると評価することはできないというべきである。

(四) 原告は、相続開始の直後に当該不動産に対する賃貸借契約が終了することが予定されている場合であっても、以後も他の賃借人に賃貸することが予定されている場合は、当該不動産は賃貸人たる被相続人の不動産貸付業の用に供されているものと解すべきところ、本件被相続人は、日本橋の建物を取り壊して新しいビルを建てる計画を有していたが、その後新たにビルを建築した上で賃貸借契約を締結して事業を営むことを予定していたのであり、事業としての継続性は認められるべきである旨主張する。

しかしながら、本件相続開始の直前において、本件ビル新築計画は、未だ構想段階にとどまっており、本件被相続人においてその実現に向けて客観的に準備行為に着手していたと評価することはできないから、本件特例の適用の有無の判断に当たって、本件ビル新築計画の存在を考慮することができないことは前記四で説示したとおりである。

原告の右主張は理由がない。

3  神田の建物二について

(一) 本多地所が神田の各建物を取得した平成二年二月当時、右各建物は既に空き家の状態であったこと、本多地所は、平成二年二月二二日付けで、神田の建物二をホンダ開発に対し賃貸する旨の契約を締結したこと、そして、右建物は、本件相続開始時においては、ホンダ開発が使用していたこと、本件被相続人は、神田の各土地を購入したその日である平成二年二月二二日に、右各土地を月額賃料三九〇万円で本多地所に対し貸し付けたこと、この賃貸借契約においては、賃貸期間は同日から平成三二年二月二一日間での三〇年間とされていたものの、他方、右土地を当時から存在していた神田の建物二そのものの敷地としてのみ使用し、その他の目的には使用しないこと、賃借人は、賃貸借契約が終了し又は途中解約された場合には、無償で賃貸人に対し神田の土地を返還することがそれぞれ合意されていたこと、クリエイトビューローは、平成二年二月二二日、本多地所との間で、萩原ビル株式会社が所有していた神田の土地三及び神田の建物三並びに神田の土地四について、平成三年八月三一日までにクリエイトビューローが神田の建物三の入居者をすべて退去させて同建物を本多地所に対し引渡し可能となった場合に、その効力が生じる旨の本件停止条件付売買契約を締結したこと、本件被相続人、本多地所及びクリエイトビューローは、平成二年二月二二日、平成三年八月末日までにクリエイトビューローが神田の土地三及び四、神田の建物三を取得し、本件被相続人及び本多地所に対し所有権移転登記手続をすることができず、かつ、同建物の入居者の立退きを完了してその引渡しを行うことができないときは、クリエイトビューローが神田の物件をその購入代金に年七・五パーセントの利息を付した代金で買い取る旨、売買予約契約を締結することを約諾する旨の覚書を締結したこと、ただし、神田の建物一は当時既に老朽化しており、右覚書においては、神田の建物一が滅失しているときは、本件被相続人が予約完結権を行使しても、同建物について売買契約が成立しないことを確認する旨がわざわざ特記されたことは、前記四2(四)で認定したとおりである。

右の経過からすれば、神田の建物二の賃貸借は、本件相続開始の直前までにおいては、本件被相続人は、神田の各土地については、平成三年八月末までに本件角地を取得した時点で、一緒に更地とする積もりであったものと推認され、神田の建物二の賃貸借は、少なくとも本件相続開始直前までにおいては、神田の土地三及び四を取得できるまでを期間とする一時的なものとして予定されていた、換言すれば、本件停止条件付売買特約の停止条件が成就するか、不成就に終わるかが判明するまでの暫定的なものとして予定されていたものと推認することができ、これを覆すに足りる確たる証拠はない。

したがって、神田の建物二の賃貸借には、「事業」といえるための要件である継続性が認められないというべきである。

(二) 以上によれば、神田の建物二の賃貸借は、本多地所にとって「事業」に当たるものということはできず、本多地所が建物二を賃貸していることをもって、同土地が本件特例にいう事業用宅地に当たると評価することはできない。

(三) これに対し、原告は、本件被相続人は神田の各土地に加えてこれに隣接する神田の土地三及び四(角地)なども取得してビルを新築する計画を有していたものの、本件相続開始の直前において、神田の土地三及び四の取得のための交渉が継続中であり、現実に本件ビル新築計画が着手されるまでには相当期間を要する状況にあり、その取り壊し時期が確定していたものではなかったなどといい、神田の建物二の貸付けが継続性を有するものである旨主張し、また、相続開始の直後に当該不動産に対する賃貸借契約が終了することが予定されている場合であっても、以後も他の賃借人に賃貸することが予定されている場合は、当該不動産は賃貸人たる被相続人の不動産貸付業の用に供されているものと解さなければならず、本件被相続人は、神田の各建物を取り壊して新しいビルを建てる計画を有していたが、その後新たにビルを新築した上で賃貸借契約を締結して事業を営むことが予定されていたのであり、「事業」の要件である継続性は認められるというべきである旨主張する。

しかしながら、右各主張がいずれも採用できないことは、前記四に説示したところから明らかというべきである。

六  本件各所分の適法性について

1  以上によれば、本件各土地はいずれも事業用宅地等に当たらず、本件相続に係る相続税につき、本件特例の適用はないというべきである。

そこで、本件各土地につき本件特例の適用がないことを前提にして、前記第二の二2記載の争いのない金額を基に課税価格、納付すべき税額を計算すると、課税価格三五億二四五九万一〇〇〇円、納付すべき税額二一億八九九九万一五〇〇円となる。

本件更正処分に係る課税価格、納付すべき税額は、いずれもこれと同額であるから、適法である。

2  原告は、本件相続に係る相続税の申告の際、課税価格及び納付すべき税額を過少に申告していたものであり、過少に申告したことについて通則法六五条四項に規定する正当な理由が存することの主張、立証はない。

したがって、原告に対しては、通則法六五条により過少申告加算税が賦課されるところ、その税額は、同条一項、二項により、本件更正処分により原告が新たに納付すべきこととなった税額二一億〇九九三万円(二一億〇九九三万五五〇〇円につき、同法一一八条の規定により一万円未満の端数を切り捨てた後のもの)に一〇〇分の一〇の割合を乗じて算出した金額二億一〇九九万三〇〇〇円に、右新たに納付すべきこととなった税額及び本件修正申告書の提出により原告が新たに納付すべきこととなった税額九四万二五〇〇円との合計額のうち、期限内申告税額七九一一万三四〇〇円を超える部分に相当する金額二〇億三一七六万円(同法一一八条の規定により一万円未満の端数を切り捨てた後のもの)に一〇〇分の五の割合を乗じて算出した金額一億〇一五八万八〇〇〇円を加算した金額の三億一二五八万一〇〇〇円となる。

本件賦課決定処分における過少申告加算税額は右金額と同額であるから、本件賦課決定処分は適法である。

七  結語

以上の次第で、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法七条、民訴法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 青栁馨 裁判官 増田稔 裁判官 篠田賢治)

(別紙) 物件目録

一1 土地

所在地 東京都中央区日本橋三丁目

地番 五番一七(住居表示三丁目五番四号)

地目 宅地

地積 七九・六六平方メートル(登記簿上)

七九・六八平方メートル(実測)

2 建物

所在地 東京都中央区日本橋三丁目五番一七

家屋番号 五番一七の一

種類 店舗・事務所・居宅

構造 鉄筋コンクリートブロツク造

陸屋根四階建

床面積 一階 七二・〇九平方メートル

二階 七二・〇九平方メートル

三階 七二・〇九平方メートル

四階 七二・〇九平方メートル

塔屋 四・二九平方メートル

二1 土地

所在 東京都千代田区神田鍛冶町三丁目

地番 七番一

地目 宅地

地積 六三・二二平方メートル

2 土地

所在 東京都千代田区神田鍛冶町三丁目

地番 七番三五

地目 宅地

地積 六三・七六平方メートル

3 建物

所在 東京都千代田区神田鍛冶町三丁目七番地一

家屋番号 七番の一の一

種類 店舗・物置

構造 木造亜鉛メッキ鋼板葺三階建

床面積 一階 三二・三三平方メートル

二階 三二・三三平方メートル

三階 二二・一九平方メートル

4 建物

所在 東京都千代田区鍛冶町三丁目七番地一

家屋番号 七番の一の二

種類 料理店・居宅及び倉庫

構造 鉄筋コンクリート造陸屋根地下一階付四階建

床面積 一階 五五・八九平方メートル

二階 五四・六八平方メートル

三階 五四・六八平方メートル

四階 五四・六八平方メートル

地下一階 五六・四三平方メートル

5 土地

所在 東京都千代田区神田鍛冶町三丁目

地番 七番一三

地目 宅地

地積 三六・六六平方メートル

6 土地

所在 東京都千代田区神田鍛冶町三丁目

地番 七番三六

地目 宅地

地積 八・三六平方メートル

7 建物

所在 東京都千代田区神田鍛冶町三丁目七番地一三

家屋番号 七番一三の一

種類 事務所・店舗

構造 鉄筋コンクリート造陸屋根地下一階付五階建

床面積 一階 三二・〇八平方メートル

二階 三二・〇八平方メートル

三階 三二・〇八平方メートル

四階 三二・〇八平方メートル

五階 一四・七〇平方メートル

地下一階 三二・〇八平方メートル

三 土地

所在 東京都墨田区八広四丁目

地番 一五七番一

地目 宅地

地積 二八二・七九平方メートル

(別紙1)

八広地区を含んだ全体事業収支計画(甲第三四号証の一および二)

収入については

八広地区貸地貸家 月 三一七万円

年 三八〇〇万円

同右アパート 月 六〇万円

年 七二〇万円

大関マンション 月 一四八五万円

年 一億七八二〇万円

一坪当たり一万円の賃料で一四八五坪を賃貸する。

同右マンション内駐車場 月 一七六万円

年 二一一二万円

一台当たり四万円の賃料で四四台分を賃貸する

中央区八重洲ビル 月 一二三三万円

年 一億四七九六万円

一坪当たり一〇万円の賃料で、一階当たり一五・四二坪、八階建て計一二三・三六坪

神田鍛冶町ビル 月 二〇六四万円

年 二億四七六八万円

一坪当たり一〇万円の賃料で、一階当たり二〇・六四坪、一〇階建て計二〇六・四坪マンションおよび駐車場敷金運用益

マンション三ヶ月分、駐車場二ヶ月分として合計四八〇七万円年二四〇万円の金利収入八重洲・神田のビル保証金運用益

各一〇ヶ月分として合計三億三〇〇〇万円の保証金を年五パーセントで運用し、年一六五〇万円の金利収入

月収入合計 五四九三万円

年収入合計 六億五九〇六万円

支出については

アパート 月 五三万円

年 六三六万円

土地取得費四〇〇〇万円、建築費六〇〇〇万円を五〇年ローンで借り入れ

マンション 月 九五〇万円

年 一億一四〇〇万円

建築費一八億円を五〇年ローンで借り入れ

中央区八重洲ビル 月 一四七〇万円

年 一億七六四〇万円

土地取得費二五億円、ビル建築費三億円、合計二八億円を年利六パーセントの五〇年ローンで借り入れた場合

神田鍛冶町ビル 月 二五四〇万円

年 三億〇四八〇万円

隣地一三坪の買収資金を含み、土地取得費を四三億円、ビル建築費を五億二〇〇〇万円とし、合計四八億二〇〇〇万円を八重洲ビルと同一の条件で借り入れた場合

月支出合計 五〇一三万円

年支出合計 六億〇一五六万円

甲第三四号証の一の「4.八重洲ビル」の欄の一六坪は、本来は、一五・四二坪である。日本橋の土地は二四・一坪だが、ここの建蔽率は八〇パーセントであるところ、建蔽率めいっぱいに建てるということはせずその八割くらいをめどにすると、

二四・一坪×〇・八×〇・八=一五・四二坪を得る。

また、「5.神田ビル」の欄の二五坪は、本来は二〇・六四坪である。神田の土地は三〇・二四坪だが、裏にある将来購入予定であった二坪を加えると三二・二四坪となる。これに右と同じ操作をすると

三二・二四坪×〇・八×〇・八=二〇・六四坪を得る。

別紙1付表

<省略>

(別紙2)

一 仮に、本件貸付けと墨田区八広地区における貸付けとを統合して計算するとした場合、本件相続開始の直前において、本件各土地は、本多地所に対して貸し付けられていたのであるから、本件各貸付けによる収支と、墨田区八広地区の物件の貸付けによる収支を総合して判断する。

二 この場合、原告の計算方法では、本件各貸付けによる収入と墨田区八広地区の物件の貸付けによる収入との合計の総収入を、本件借入金の利息その他の支払に全部充ててしまうという仮定に立っているのであるから、収支が均衡するまでの支出超過額に相当する額については、当然新たな借入れが必要となり、その結果、原告の借入額は、その新たな借入についての利息分を含めた借入額を次々に合計した金額とならざるを得ない。

そうすると、ある年の支出超過額をaとし、新たな借入金の利率をrとすれば、その年の支出超過額に充てる借入れのため、一年間に支払う利息額は、

a、ar、a2r、a3r、・・・・・anr

の合計額になる。したがって、これによるその年の借入額の合計は、

a/1―r

となり、この借入額が翌年の支出超過額に加算され、同様にして、年々借入額が増加していくことになる。

1 収入金額

収入金額については、以下の各金額の合計額に基づき、その上昇率については、原告主張の年三・五パーセントを前提とする。

(一) 日本橋の土地に係る地代 三六〇〇万円

(二) 神田の各土地に係る地代 四六八〇万円

(三) 八広地区の土地に係る地代 二八七六万六八八〇円

(四) 八広地区の家屋に係る家賃 一九五九万八〇三八円

(五) 八広地区の駐車場に係る賃料 四〇一七万六二九一円

(六) 八広地区の物件に係る更新料・礼金等 五一九万六八五〇円

(七) 大関マンション・同駐車場に係る賃料 一億八二九二万五六〇〇円

・合計(一年目の賃料収入) 三億五九四六万三六五九円

(注1)(一)ないし(六)については、これらの物件を相続した原告の平成三年分(本件被相続人が取得を計画していたとされる物件を原告がほぼ取得しきった年分である。)の所得税の確定申告書に添付のうえ提出された青色申告決算書(不動産所得用)に記載された金額である。

(注2)(七)の金額は、大関マンション及びその駐車場が、現実には貸し付けられていないため、マンションに係る賃料については、原告から住宅金融公庫に届け出された金額とし、駐車場に係る賃料については、不明であるため、やむを得ず原告主張の金額によった。

2 支出金額

支出金額については、以下の金額の合計額に基づき、租税公課の上昇率については、収入金額と同様とした(原告主張に同じ。)。

(一) 租税公課 三九九一万三五三六円

(二) 修繕費 四〇万一七〇〇円

(三) 借入金返済額 六億二四四六万七二六三円

・合計(一年目の支出金額) 六億六四七八万二四九九円

(注1)(一)及び(二)の金額については、1の(注1)に同じ。

(注2)(三)の金額は、1の(一)、(二)及び(七)の取得に係る借入金を別表12に掲げる条件に基づき、元利均等返済の方法により計算した場合の返済額である。

(別紙3)

一 仮に、本件各土地につき本件ビル新築計画があったとし、本件ビル新築計画と墨田区八広地区における貸付けとを総合して収支計算をする場合、その算定根拠は、現実的に予想される以下の条件による。

二1 収入金額

収入金額については、以下の各金額の合計額に基づき、その上昇率については、原告主張の年三・五パーセントを前提とする。

(一) 日本橋のビルに係る賃料 六四七四万七六一九円

(二) 神田のビルに係る賃料 八六五六万六九五八円

(三) 八広地区の土地に係る地代 二八七六万六八八〇円

(四) 八広地区の家屋に係る家賃 一九五九万八〇三八円

(五) 八広地区の駐車場に係る賃料 四〇一七万六二九一円

(六) 八広地区の物件に係る更新料・礼金等 五一九万六八五〇円

(七) 大関マンション・同駐車場に係る賃料 一億八二九二万五六〇〇円

・合計(一年目の賃料収入) 四億二七九七万八二三六円

(注1)(一)及び(二)については、以下の計算による。

平成二年分の各地域の近隣地域の実質賃料平均(日本橋地区につき一平方メートル当たり一万三二五一円、神田地区につき一平方メートル当たり一万一二九五円)に基づき、賃料の上昇率については、原告主張の年五パーセント上昇を前提とする(この上昇率が続くとは到底考えられないが、一応この上昇率で計算した。)。

そして、賃貸面積については、原告の賃貸面積についての主張はあいまいなものであるが、通常、賃貸用ビルは、機械室、階段等共有部分を除いたいわゆる有効部分の面積について賃貸借契約が締結されるので、建物の延床面積すべてを賃貸の用に供することはできないところ、一般に、右共有部分の延床面積が建物全体の延床面積に占める割合は約二〇パーセントといわれている。

そこで、賃貸料算定の対象となる床面積を計算すると

日本橋のビル

(土地面積) (建ぺい率) (専用面積割合)

二四・一坪×〇・八×〇・八×八階=一二三・三九坪

神田のビル

(土地面積) (建ぺい率) (専用面積割合)

三〇・二四坪×〇・八×〇・八×一〇階=一九三・五四坪

となる。

これらを基に計算すると、日本橋のビルの一年目の賃料収入は、六四七四万七六一九円、神田のビルの一年目の賃料収入は、八六五六万六九五八円となる。

(注2)(三)ないし、(六)については、これらの物件を相続した原告の平成三年分(本件被相続人が取得を計画していたとされる物件を原告がほぼ取得しきった年分である。)。の所得税の確定申告書に添付のうえ提出された青色申告決算書(不動産所得用)に記載された金額である。

(注3)(七)の金額は、大関マンション及びその駐車場が、現実には貸し付けられていないため、マンションに係る賃料については、原告から住宅金融公庫に届け出された金額とし、駐車場に係る賃料については、不明であるため、やむを得ず原告主張の金額によった。

2 支払金額

支払金額については、以下の金額の合計額に基づき、租税公課の上昇率については、収入金額と同様とした(原告主張に同じ。)。

(一) 租税公課 三九九一万三五三六円

(二) 修繕費 四〇万一七〇〇円

(三) 借入金返済額 六億五九七五万四三一〇円

・合計(一年目の支出金額) 七億六万九五四六円

(注1)(一)及び(二)の金額については、別紙2の二2の(注1)に同じ。

(注2)(三)の金額については、別紙2の二2の(注2)と同様に、1の(一)、(二)及び(七)の取得に係る借入金を別表14に掲げる条件に基づき、元利均等返済の方法により計算した場合の返済額である。

別表1

本件課税処分等の経緯

<省略>

別表2

課税価格等の計算明細表

<省略>

別表3

税額算出表

<省略>

別表4

土地の価額の明細表

<省略>

<省略>

<省略>

<省略>

別表5

家屋の価額の明細

<省略>

別表6

現金、預貯金等の明細

<省略>

別表7

その他の財産の価額の明細

<省略>

別表8

債務の金額

<省略>

別表9

<省略>

別表10

本多平左衛門 不動産所得に係る収支内訳表(昭和60年~平成2年分)

<省略>

別表11

日本橋及び神田の各土地を本件被相続人が貸し付けた場合の収入及び借入金返済の検討表

<省略>

別表11付表

支出金額の内訳

<省略>

別表12

<省略>

別表14

<省略>

別表13

日本橋及び神田の各土地に本件被相続人所有のビルを建築した場合の収入及び借入金返済の検討表

<省略>

別表13付表

支出金額の内訳

<省略>

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